「影山くん。」
「ん?」
「わたしたち、大学生になったわけじゃないですか。」
「ソウデスネ。」
「…一緒に住み始めて1カ月経つじゃないですか。」
「ソウデスネ。」
高校は結局東京と宮城で離れ離れだったため、会えても夏休みと冬休みの数日間。それでも私たちは好き同士でずっと付き合っていた。
でも、私たちはハグ以上の進展が一切ない。
影山くんが東京のバレーの強豪校にスカウトされたらしくこちらに引越してくるタイミングで私たちは一緒に住むことになったんだけど、それでも影山くんは私に手を出してくる気配すらない。
病気も完治しているし、私はそれなりに覚悟している、むしろ早く影山くんと先に進みたいと考えていたのに。本当に影山くんの三大欲求って睡眠、食欲、バレーだと思う。
「何が言いたいんだ?」
「…何でもない。」
「ふーん。」
今日は2人のオフがあった貴重な日、というのにも関わらずデートをするわけでもなく家で変わらぬ休日を過ごしている。少しくらい構ってくれてもいいのに。
病気が直ったとはいえ、そこを気にしているのか、はたまた私自身にあまり興味がないのか、影山くんの真相は読めない。
「…買い物行ってくる。」
「どこに?」
「スーパー。」
「…俺も行く。」
「え、」
「ちょうど体動かしたかったし。」
「…そういうことか。」
私はチェスターコートを羽織り、影山くんと一緒に家を出た。形はどうあれ、影山くんとこうやって一緒に歩くのは一緒に物件探しをしに行った2か月振りだ。
隣を歩く影山くんは、高校生の頃よりずっとかっこよくなった。バレーも入部早々選抜メンバーに選ばれたらしく、大学以外でも女の子にすっごいモテてるのも風の噂で聞いていた。
影山くんと付き合っている自信がない。そもそも前みたいに好きって言ってくれなくなったし、もしかして影山くんは私のこと彼女と言うよりお手伝いさんとかそういう感じで一緒に住んでいるのかな。
「ハア…。」
「おい。スーパーすぎてる。」
「…はーい。」
「…大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「…何怒ってるんだ?」
「怒ってないもん。今日ご飯何がいい?カレー以外。」
「……何でもいい。」
「それが1番嫌。」
私は買い物かごを持って少し早歩きで食材を見る。怒ってるわけじゃないし、こんな雰囲気にさせたくないのに。素直に言えない自分が嫌になりそう。
影山くんはもうそれ以上言葉を発すること無く、ただ私の後を着いてきた。途中でかごを持ってくれたりして買い物を終え、私たちはスーパーを出た。荷物は全部影山くんが持ってくれたので、私は手ぶらでまた家路へと歩いた。
「辻川さん。」
「…なに?」
「俺が夜ごはん決めなかったから怒ってんだろ?」
「……。」
「ごめん。でも辻川さんの作るご飯何でも美味いから、本当に何でもいいと思って、」
「違うの。」
「…え?」
「ご飯決めなかったから不機嫌だったわけじゃないの。」
「そうなのか?」
「…影山くんって、わたしに興味ある?」
「……ハ?」
振り返ったら影山くんはびっくりした顔でわたしのことを見ていた。
「わたしは、あるよ。影山くんと付き合って、もっと恋人として、いろいろしたいなあって思ってた。きっと一緒に生活を始めたらそういうことも自然と行っていけるのかなって思ってたのに、影山くん、そういう素振り一切ないんだもん。私、影山くんの恋人でいいんだよね?」
「……。」
「…まだ、わたしのこと、好き?」
そう聞けば影山くんは怒っているような表情をして、私の腕を引いた。影山くんの歩くペースは速くて、私は小走りで追った。掴まれた腕は痕が残ってしまいそうなくらい強く、少し痛いくらいに引かれた。
こんな影山くん、初めてだった。
家に着くなり、腕はまだ掴まれたままで買った食材とか全部玄関に置きっぱなしのまま寝室へと連れ込まれ、乱雑にベッドに押し倒された。吃驚する間もなく、影山くんは私の両腕を抑え、苦しそうな顔をして馬乗りになった。
「俺が辻川さんのこと好きじゃないわけない。」
「…か、げやまくん、」
「俺だって男だ。…1回手出せば止まらなくなる。」
「っ……、」
「だから今まで手出さなかった。病気のこともあったし、平気だって言ってたけどやっぱり心配だから。でも!何だよそれ、そんな勘違いされるんだったら、」
まるでスローモーションかのように影山くんが近づいてきて、目を閉じる間もなくキスされた。触れてるだけなのに、影山くんを直で感じている気がして嬉しかった。
「俺は我慢するのをやめる。」
「っ…、」
「え、あ、わ、わるい!腕痛かったか!?やっぱ俺、」
「うれ、しいっ…。」
「…え?」
「影山くんが、わたしのこと、求めてくれるのが、うれしいっ、」
「っ…もう、これ以上はやめてくれ。」
そう言って影山くんは私の横に倒れ、手で顔を覆った。私も影山くんも同じ顔をしていた。