顔合わせ


「…なんか、心なしか3軍社屋より綺麗な気がする。」

就任決定から3日後、私は1軍寮へと引越をし数少ない荷物を持ちこれから自宅となる部屋へと入った。直ぐに受付の50代女性スタッフと食堂のおば様たち4人に挨拶をし、荷物を置いた後恐る恐る社屋を歩くとあちらこちら綺麗で少し目が痛かった。
早速体育館の扉を開くと、まだ練習開始時刻まで1時間近くあるにも関わらず数人の選手の姿が見えた。彼らも私に気が付いたのか、4人8つの瞳が私を捉えた。

「あれ、島田さんが言ってた新人マネージャーの方?」
「え、山下さんはどうなるんすか。」
「飛雄くん島田さんの話聞いてなかったやろ。」
「随分若いね、いくつ?」

ああ、確かベテランセッターの佐藤さん、期待の新人セッター3と言われている宮さん、影山さん、及川さん。この3人は特に雑誌で特集を組まれるほど女性人気が凄く”やばい”ということを前任の山下さんからもちょくちょく聞いていた。というかこの世代はセッターが豊富だなあ本当に。

「本日から配属になりました辻川と申します。本日は13時から、でよかったですよね…?」
「ああ、間違ってないよ。こいつらがすごーくやる気に満ち溢れてるだけだから。」
「なんやその言い方恥ずいですわ。」
「早く安田さんのAクイックのタイミング教えてほしいっす。」
「ねえねえいくつ?」
「と、しは26です。」
「あ、じゃあ俺の1つ上?」
「俺より下かと思ってたわ。童顔やな、あんた。」
「佐藤さん、やりましょう。」

何だ、何だこの自由人たちは。佐藤さんだけがこの中では常識人のようで、苦笑いをしてごめんねと声を掛け引っ張られるように影山さんにコートに連れてかれていった。それに伴って及川さんと宮さんも私にあれこれ言っていたけどまた後で、と頭にぽんと手を置きコートに行ってしまった。漫画で言うと”ぽかん”という擬音が付きそうだ。
たった数分の出来事だったのに何時間にもよるコミュニケーションを取った、そんな気分。

どっと疲れたけどコートの外から4人を見ているとハイレベルな調整が目の前で繰り広げられていることだけは分かって、これが今の日本チームの司令塔:セッターポジションを争う人間たちの会話なんだと思うと背筋がピンとなった。私はこれからこういった人たちに囲まれて世界と対抗するんだな。

「たのしみ、になってきた…かも。」
「何が?」
「ひ!あ、」
「お、新マネージャーの方かな?」
「おお!俺西谷夕、ポジションはリベロだ!よろしくな!」
「西谷、挨拶早いな。俺はアウトサイドヒッターの安田です。辻川さん、だよね?島田さんから聞いてます。」

安田さんは今季全日本男子バレーのキャプテンだ。私はこの人のプレーをテレビで見ていてとても好きだった。189cmという世界からしたら低い身長から繰り出される力強いスパイクの中でもバックアタックの高決定率にいつもテレビ越しに感動していた選手が目の前にいる、すごい。1軍って怖い。私は慌てて距離を取って頭を下げた。

「本日から配属になりました辻川みのりと申します!皆様に合わせるまで少し時間が掛るかと思いますが、早くサポートにいきつくまで慣れたいと思っていますのでよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、今年は特に若いメンバーを多く率いれてるから辻川さんと年齢も近いと思うしコミュニケーション沢山とって馴染んでってくださいね。」
「ありがとうございます!」
「辻川サン何歳ですか!」
「こら女性に直ぐに年齢を聞くんじゃない。」
「え、だって俺らと歳近いって言ったから気になって…」
「26歳です、西谷さんは確か、」
「じゃあ2つ上だ!高校被ってたんだな!」
「西谷、敬語。」
「いいですよ、全然。同世代ですし、西谷さんがやりやすい形でいてください。」
「っしゃ!じゃあみのりって呼ぶな!」
「ん!?ま、あ…はい、わかりました。」
「え〜じゃあ俺もみのりちゃんって呼ぶね〜!」
「じゃあ俺もそうするわ。」

はい、もう好きにしてください。



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