見張り番


1軍就任から早1ヶ月。ようやく浮いたようだった自分の立ち位置から少し居心地の良いものに変わっていったここが、就任前の印象を変えた。まずアイドル集団と思っていた1軍メンバーの人たちは案外普通の人で、特に新人セッター3と呼ばれていた及川さん、宮さん、影山さんらは女たらしの彼女もち、意地悪な熟女好き、バレーバカの子供という印象に格下げだ。
なるべく近寄らないようにしておこうと思っても年齢が近いこともありU26は私が面倒に回されることが多く日々奮闘中だ。その中でもやっぱりこの人。

「かーげーやーまーさーん!!」
「げ、は、はええよボケ!」
「早いも遅いもありません!ご飯を食べたらお風呂に入ってマッサージ、そして23時には就寝です!何度言えばわかるんですか!」

影山飛雄、彼の隠れ練習は私の隙を見て日々行おうとしてくる。あの日、監督には言わずこっそりと阿部コーチにだけ報告したら「影山のこと、お願いします」とだけ伝えられ影山さんは監督やコーチに怒られる光景はなく影山さんの管理は全て私に任されたようだった。だから絶対にこれ以上過度な練習をさせるわけにはいかないのにこの人は本当に!

「10本だけ、10本だけだ!」
「ダメです。その10本が大切な試合の1点に関わるかもしれないんです。」
「そんなやわじゃねえ!」
「それを見分けるのは私たちスタッフです。この話も何度もしましたよね?」
「んぐう、でも!」
「でももない!はい帰る!」
「い、いやだ!」
「子供ですか貴方は!」

嫌々と駄々をこねる影山さんは本当に23歳になる人間なのか疑うレベルで。私はひょいっと影山さんが持つボールを奪い、ボールカートも準備室へと移動させる。その後を走って追いかけてくる影山さんの血相と言ったらファンの方々に見せてあげたい。何がクールで冷静、寡黙なイケメンだ!こんなの野生のイノシシ以外ない!

「ギャアア!怖い!」
「うるせえ!あ、おまえ前見ろ!」
「へ?んぎゃあ!」

大人の鬼ごっこはどうやら私の負けだったようでボールカートごと壁に激突した私はガシャンという音と共に派手に1回転をしながら転んだ。案外冷静なもので、ああ…私は何をしているんだという呆気に取られる。だけど影山さんは相当焦ったらしく、こんなに大声だしたらいろんな人にこんな時間に体育館にいたことバレちゃうよ、と思うほど名前を呼んでまた肩が外れそうになるほど体を揺すった。

「おい!辻川!辻川!」
「だ、いじょぶなので、こえ、こえ抑えて…あと、肩、いたい…です……」
「わ、わるい!俺、!」
「いてて……あ、壁とか、カートとかへこんでませんか…?」
「だ、大丈夫だ。」
「よかった〜…影山さんは?巻き込まれて、ないですか?」

そう床に寝ころんだまま聞くと少し唇を噛みながら俺は何ともねえ、とぶっきらぼうに言った。それだけで私の頭と腕の痛みは少し軽減した気がする。

「っ〜、ちょっと頭打ったみたいなので、念のため病院行ってきます。あ、ボール、」
「俺が片付けておく。もう練習もしねえ、病院もついてく。」
「ダメです、影山さんは、そうですね…ボールだけ片付けて照明を消して体育館の施錠してもらえますか?そしたらまっすぐお部屋に帰ってシャワー浴びて寝てください。いいですか?絶対です。」
「でもっ、」
「私は平気です、寧ろ影山さんがきたらもっと頭痛くなっちゃう。」
「っ〜〜じゃあ、連絡先。連絡先教えろ。それで病院ついたら連絡してくれ。」
「……………」
「じゃないと俺だってダメだ。俺のせいで辻川、サンがこんなことになったのに…、」
「…ふふ、呼び捨てでいいですよ。さっきも散々そう呼んだじゃないですか。」

罰を受けた子供みたいな顔をして、本当に可愛い年下男子だ。私はふと笑って頭を撫でると影山さんはびっくりしたのかただでさえ大きい瞳をガッと開けても口をごもごとさせた。ハムスターみたいだ。

「よいっしょっと、あー立ち眩み……」
「っやっぱり俺、」
「いうこと、聞いてくれますね?あ、これlineのIDです。連絡はしますから、一応。でも寝てしまっていいですからね。」

私はふらふらと体育館を後にした。
大事にもしたくなかったしメディカルトレーナーの志村さんにだけ整骨院に行ってくると嘘をつき総合病院へと向かった。それにしても影山さん、私のこの打ち身をきっかけに自主練しないってなればいいなあなんてそんなことを考えてしまう私はマネージャーの鏡だと誰か褒めてほしい。


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