遅刻厳禁のフラグを折る


「影山がいない!?」
「おいおい、及川…お前隣の部屋だろう、あいつどうした。」
「知らないですよ〜、まあ物音はしてなかったので寝坊じゃないですかぁ?」

AM6:10 東京駅新幹線乗り場。あれだけ遅刻厳禁と伝えたにもかかわらず堂々たる遅刻をしてきたのは昨日の夜にも話をした影山さんだった。スタッフ一同話し合いをしながら、マネージャーである私が電話を続けていたらようやく影山さんと電話が繋がった。

「影山さん!?今どこですか!?」
『ごめ、俺あの』
「落ち着いて、寝坊も遅刻も今すぐは問いません。どちらにいますか?」
『いま寮の最寄駅まできた、デス』
「了解しました、ではタクシーで来た方が20分短縮できるしミスも事故の可能性もほぼありません。直ぐにタクシーに乗って東京駅へと向かってください。」
『わかった、俺、試合、』
「…そこは私が何とか監督やコーチには掛け合ってみます。とりあえず東京駅で待ってますから。」
『……ごめん、』
「お気をつけて。じゃあ一度切りますね。」

電話を切るとキャプテンと監督、コーチらが私に一斉に事情を問いただした。

「遅れた理由は、彼なりに調整をしていたみたいです。昨日の夜にスタメンに選んでいただいたのがとても気になさっていたのでそのこともあったかと。とにかく今寮の最寄駅にいるようなのでタクシーで向かうように伝えました、なので2本後の新幹線に乗れるかと思います。私はこれからチケットの払い戻しをして自由席でも取れるか確認してきます、彼を連れて皆様と少し遅れていきますので先に向かっていただけますか?」

こういう時の女の真顔のマシンガントークは怖いしやけに説得力がある、と昔3軍のメンバーに言われたことがあったっけ。監督のこんな呆気にとられた表情など見たことが無かった、というか及川さんその変なものを見るで見るのやめて。

「じゃ、じゃあここはみのりに任せる。ウォーミングアップには間に合うのか?」
「はい、必ず間に合わせます。」
「わかった。ならあいつのスターティングの起用はそのままでいく、ただし10分遅れたらその時には諦めてくれ。」
「承知しました、ではチケットの払い戻し行ってきますね。また後程!」
「ああ、影山を頼んだ。」

私は会釈をして緑の窓口まで早歩きで向かった。あれだけかっこいいこと言っといて試合に出ないで遅刻なんてかっこ悪すぎるからな、影山飛雄。今更ながら遅刻してくる影山さんに対してイライラとしてきて私はずんずんと足音を鳴らした。
それから20分後、また影山さんから着信が入った。

「はい、辻川です。」
『いま、えき、ついた』
「了解です、私多分タクシー乗り場の近辺にいる…あ、影山さん!」

こういうときにバレーボール選手は背が高くて目立つからありがたい。なんだろう、少し泣きそうな顔をした影山さんを見たら怒ってやろうと思った気持ちが薄れてしまった。

「ほんとすみません!!俺、昨日あんなこと言っておいて寝坊して、すげえ気合入れたらなんか逆にぐっすり寝ちゃって…、アラームもつけてなくて、」
「逆にアラーム掛けてなくてあの時間に起きてくれてよかったですよ。」
「……みんなは、」
「先に向かってます。私たちは6:38発の新幹線で向かいますからね。はいチケット。」
「あざす、え、と試合…は、」
「ウォーミングアップまでに間に合えば、スタメン起用らしいです。」
「!!時間って、」
「ギリギリには違いないですが、間に合いますよ。」

はあ〜と膝から崩れるようにその場でしゃがみ込む影山さんはどうやらそれほどまでにスタメン起用を気にしていたらしく、私も多少の変な人になってよかったと思った。よく見ると影山さんの後頭部にはちょこんと寝ぐせも見えて、きっと本当に起きたまま家を出たんだろうなあと思うとその後頭部の寝ぐせが可愛くて私はよしよし、と頭を撫でた。というか影山さんの頭を撫でるなんて貴重体験だろう。

「え、」
「遅刻、寝坊はだめです。でも昨日影山さんがああいう風に言ってくれなかったら私はここまで動かなかったかもしれません。」
「…………」
「全部、繋がってるんです。昨日の影山さんも、これまでの練習の蓄積も、休息も。ね?」
「……わかった。」
「よしよし、いい子いい子。」
「っ子供扱いやめろ。」
「ふふ、じゃあ行きましょうか!とりあえず新幹線に乗ったら監督に連絡を入れることになってるのでしっかり謝ってくださいね。」
「おう。」
「あ、寝坊のことは2人だけの秘密です。調整していた、とだけスタッフの方に説明したので。だからその寝ぐせ、後で直してくださいね。」

そういうとばっと影山さんは後頭部を抑えた。少し恥ずかしそうな顔をしながら何度も髪の毛を抑えている姿に母性を擽られてしまった私は今なら一部のファンの方が言う「影山選手は可愛い」という言葉の意味が分かる気がした。


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