及川さんと俺


飯を食い終わって部屋に戻ると及川さんが扉の前で機嫌悪そうに待ってた。この人俺のこと嫌いすぎるだろと思ってたけど本当に嫌そうだな。

「及川さん、待たせましたか?」
「待った。すっごい待った!あーもう飛雄ちゃんのくせして先輩待たせるなんていいご身分だよね!」
「後輩なんで出るの1番最後遅いんすよ。」
「ハンッ!」

文句を言いながら鍵を開けて俺も慌ててその後ろを歩く。部屋に帰ったら風呂に入って明日の準備…と色々考えていると及川さんからおい、と声を掛けられる。

「はい?」
「お前、今日どうだった?」
「…どうだった、って‥まあ想定内の動きでしたけど。」
「へ〜じゃああの2セット目の6点目も?」

ギク、と自分でも思い当たる点数を言い当てられる。やっぱりこの人の目は誤魔化せていなかった。

「何迷ってんだよ。あそこはフェイクを入れるより真正面に牛若いんだから上げればいいじゃん。」
「……その前、少しもたついたので気になって…」
「もたついたからこそだろ?次の修正はいつするんだよ、忘れる気?」
「そんなことないっす!」
「ちびちゃんが相手だったからどうせ少しかっこつけたくなったんだろ。牛若にも大丈夫っすって言って終わらせちゃってさあ、ああいうの見逃せないからプロは。」

見透かされた感情に自分が嫌になる。確かにあの時、少し攻撃がもたついたことをチームのみんなにというより日向に悟られたくなかった。自分の身勝手な感情、それがあの1点だった。

「まあ俺はいいけどね。それでお前がスタメン落ちて俺がスタメンになる、ただそれだけだ。」
「……はい、もう次はしないっす。」
「ふん、あと初っ端のサーブ、ミスったなら戻って100本でも1000本でも打ち込めよ。」
「はい!」
「あと今晩、寝言とかうるさかったら俺はこの部屋を出てみのりちゃんの部屋で寝るから。」
「は、…え?」

思わず返事をしそうになったけど、今なんて言った?及川さんはニヤっとした顔をしてさ〜風呂風呂っとバスタオルを持ち立ち上がった。

「あ、の…及川さん、辻川の部屋で寝るって…」
「お前がうるさくしたらね。」
「そんなのだめだろ!…です。」

思わず大きな声を出すと自分でもハッとして慌てた。その姿を見て及川さんはハーン、と言ってバスタオルを近くの椅子に投げ俺の方へとくる。めんどくさい気がして俺は後ずさりすると飛雄ちゃん、と名前を呼ばれた。

「みのりちゃんのこと、好き?」
「は?!な、なにいってんすか!」
「恋愛感情もってんのかって聞いてんの。」
「そんなんじゃねえ!…です。」

辻川のことは、就任してから何度も迷惑をかけてるし数日前に怪我もさせてしまったり、今朝だってフォローに回ってもらってもう何回も助けてもらっている。出会ってさほど月日が経っているわけではないのに自分の中でいなくてはならない存在にはなっていた。でもそれが恋愛だとは、思わない。そもそも恋愛なんてする暇ないだろ。

「…って顔してるな。」
「え?」
「恋愛してる暇ないって顔。」
「……………」
「俺は恋愛してるけどお前よりスタメンになった回数多いし?サーブだって下手なミスはしない。先輩方だって半分以上は家庭を持ってる。別に恋愛はバレーをするにあたって邪魔なものじゃないだろ。」
「………そういう、もんっすか。」
「そうだね。つーか飛雄って童貞?」
「そ!そんなことないっす!」
「へー本当?相手誰?いつ?」
「お、及川さんには関係ねえです!」

教えろよ、と言及されるけど絶対にバカにされるから俺は頑なに口を閉ざした。
経験は、本当にある。高校卒業してプロになった1年目、歓迎会みたいなところであれはスポンサーの人だったと思う。俺を高校のころからテレビとかで見ていたとかなんとか、いろいろ言われて今みたいに経験があるのかとか聞かれて…その時は未経験だったし、周りの雰囲気とか、流れで気が付いたらホテルのベッドにいた。興味も全くないと言ったら嘘になるし、相手も求めてきたから1回だけした。正直「こんなものか」という感想だった。もちろん、そのまま口に出してしまった俺はその後ビンタされたわけだけど。だから別に恋愛に時間をかけるならバレーしてたいというのが持論だ。

「まあ恋愛は全てタイミングだから。お前はそのタイミングがきっとすっごい貴重だから逃すなよ。」
「………及川さんは、辻川のこと、好きなんすか。」
「はあ?もちろん好きだよ、いい子だし。」

及川さん、好きなのか…辻川のこと。そう思うとなんか胸がもやっとした。なんだこれ、監督に怒られた時とは違うこのモヤモヤ感。

「ふ、気に入らねえって顔してる。やっぱり好きなんじゃん。」
「………違うっす。」
「じゃあ俺告白して付き合っちゃおっかな〜、及川さんのこと振る女子なんていたことないしね〜!」
「……………」

モヤ、モヤ………モヤモヤが胸をぐるぐるとさせる。そして浮かんでくるのは辻川の俺を呼ぶ声と、心配してくれた時の優しい顔。
及川さんのものになんて、なってほしくない。

「ま、俺彼女いるけ、」
「嫌っす。」
「……え?」
「俺、辻川が及川さんと付き合うの、嫌っす。」
「………何で?別によくない?お前みのりちゃんのこと好きでもないんだろ?」
「っ……すき、じゃない、こと、なくもなくもない!」

俺は自分の気持ちに気が付いたら恥ずかしくなって部屋を出た。やべえ、俺…辻川のこと、好きなのかもしれない。



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