ばったりびっくり訪問


「はあ、」

今日は色々あった。初っ端から影山さんの遅刻で想定外のトラブル対応からお弁当が1つ足りない騒動。(もちろん自分の分から抜いて何とか対応した)想像以上に及川さんの駄々こねは最小限に抑えられたけど先ほど1軍のみんなのタオル類の洗濯物を預かってきたからあとはこれを乾燥機まで掛ければ終了だ。
部屋に入って少しソファに座り息を吐いて荷物の整理とお風呂だけ入ったら洗濯に行こうと思い準備をする。時間もないしシャワーだけ簡単に浴びて出ると及川さんからLINEの通知が来ていた。

【飛雄が部屋から出て行ったので見つけたらよろしくー★】

「……ここで最後の王手、ですか。」

【追い出すようなこと言ったんですか!?】

【いや?でもきっとみのりちゃんが見つけてくれたら飛雄も嬉しいと思うよ】

【私は大変です】

【確かにー!ごめんね!】
【スタンプが送信されました】

【影山さんが戻ったら連絡ください】
【今から探してきます】

私は濡れた髪のままジャージに着替えマスクを装着し部屋を出た。きっとホテル内にはいるはず、早く探さないと明日も朝は早いんだ。私はついでに館内にあるコインランドリーに洗濯物をぶっこみ、ロビーから捜索を開始した。ようやく見つけたその姿は、私の懸命な捜索があったとはつゆ知れずガーデンテラスのベンチに座っていた。

「影山さん、探しましたよ。」
「っあ、」
「こんな時間に外にいたら風邪ひきます、室内入ってください。」
「……ちょっと風にあたりたい気分だったんだよ。」
「なんですかそれ詩人にでもなるんですか影山さん、ほらっ!」

影山さんの腕を引っ張り室内へと連れ戻そうとするとおい、と掴んでいた腕を振り下ろされる。と同時に明りに照らされた影山さんの顔が赤くなっているのに気が付いた。これは、もしかして…。

「影山さん!!顔、赤いです!!熱じゃないですか?体は平気ですか!?」
「っ〜〜そういうんじゃない、」
「え、でも、」
「ほっといてくれ…そのうち戻るから。」
「そういうわけには、っくしゅん、」

季節は秋も終わり掛け、夜でももう10度を下回ってるかもしれない。自身が髪も濡れたままだったことに今気が付くと寒さに身震いした。そんな姿を見てか影山さんは自分の着ていたジャージを脱ぎトレーナー1枚の姿で私にそれを渡してきた。

「着てろ。」
「ダメですよ!影山さんのほうが体調悪そうですししっかり着込んで、」
「俺は平気だ、お前…髪濡れたままじゃねえか。」
「そうなんです、影山さんのこと探してたんで。これはちゃんと影山さんが着てください、私が可哀そうなら早く室内に行きましょう、お願いします。」

チクチクと嫌味も混ぜてそういえば影山さんの顔色から赤さは引いて小難しい顔になる。そして立ち上がって室内に戻ってくれるようでほっとした。ちらちらと私が気になるのかこちらを見る視線にこちらだって気が付いてないわけじゃない。でも目を合わせようと視線を向けると反らされてしまう…うーん、いつの間にか気にさわるような何かしてしまっただろうか。

「及川さんとの同室、やっぱり影山さんも嫌でしたか?」
「え?あ、いや…俺は別に誰でもいい。」
「そ、うですか。じゃあ私、何か失礼なこと影山さんにしちゃいましたかね?」
「何で?」
「こっち見ないので、影山さん。」

分かりやすいように肩が上がった影山さんはギギギと人形が動くかのようにゆっくりと振り返ると視線を合わせた。少し眉間に皺が寄ってる気もするけど、口をもごもごと何か言いたげで少し気まずそうだった。

「何か不安なこととかあったら言ってください。私はいつでも影山さんの味方なので。」
「……おう。」
「それが分かればいいです、及川さんが扉開けてくれるか心配なので部屋まで送ります。行きましょう。」
「あ、辻川!」

まるで先ほどとは逆で今度は私が影山さんに腕を掴まれる。少し汗ばんだ、でも大きくて温かい手。どうしましたか?と聞くと、ぼそぼそとこの距離でも聞こえないような声で何かを呟いた。

「あの、聞こえなくて…もう1回、」
「及川さんとは!付き合わないでほしい!」
「………はい?」
「あ、いや、違う…お前が好き、とかだったらそうは言わない、んだけど……そうじゃないなら、嫌だって話で、」
「あ…の?付き合うって恋愛とかそういうものですか?」

まさかこういう類の話が影山さんから出てくると思わなくて思わず吃驚してしまった。だけど影山さんはこくりと首を縦に振り気まずそうにしている。もしかして及川さんに何かおちょくられたのかな…。まだたった数ヶ月の関係だけど2人の関係性も影山さん自身の性格もある程度分かったつもりでいるからこそそう思ってしまう。真面目で真っすぐな影山さんにこういうちょっかい出すのはやめてほしいですよ、及川さん…と思いつつ私はあり得ませんよ、と声を漏らす。

「だって及川さん、彼女いますよ?」
「……嘘だろ。」
「本当です。聞いた話によるともうここ数年はその人らしいですけど影山さんはお会いしたことないんですか?」
「あ、ある…あるけど、及川さんが辻川のこと好きだし付き合っちゃおうかなって言ってたから別れたのかと思って、」
「人間としてとかそういう系ですよ。それに私は選手とそういう恋愛沙汰は絶対にありえません。」
「…………」
「ほら、もう部屋戻りましょう?影山さん?」

私はエレベーターに乗り影山さんを呼ぶと俯いた状態から微動だにしない影山さんを見てまた不穏な気持ちになる。心配事が減らない人だなあ、と呑気に考えていたら影山さんが急にガツガツと音を鳴らして歩み寄り、エレベーターの扉の閉めるボタンを左手で連打し右手で壁まで私を追いやるとほぼ同時に後頭部を掴み扉が閉まると同時に目の前に影山さんの綺麗な黒髪が広がり唇に柔らかい感触を覚える。あれ、キスされてる、と気が付いた時にはエレベーターは止まっていて、扉が開くと同時に何も言わずその場を立ち去り離れていく影山さんに着いていけずへにゃりとその場に座り込んでしまう。

「な、んなの……?」

それでも確かに感じてしまった、胸のときめきを私はどう処理していいのか分からなかった。


next.忘れたい人