天使と出会いました
万理さん家で3人で過ごした翌日。私はまだ眠る家主を置いて家を出た。(鍵はもちろん閉めて下のポストへ投函)とんでもない夜だったな、と思いながらも千さんとの間にあった嫌な空気を恐らく解消出来たことが少しうれしくてスキップで駅まで向かう。事務所に到着するなり岡崎さんから何かいいことでもありました?と聞かれて我ながらにやけた表情はしないようにしていたはずなのに顔に出やすい性格だなあと苦笑いになった。
「実は…千さんと和解できたんです。」
「え、本当ですか!?」
「はい、本当にすみませんでした…今後はしっかりコミュニケーション取っていきますので!」
「よかった〜!いやいつかはちゃんと和解できると信じていたので、本当に安心しましたよ。」
「あはは、ご迷惑をお掛け致しました。」
「でも急にどうしたんです?あ、もしかして百くんが?」
「あー…えっと、そうですね、百さんとか、まあいろいろ…。」
「そうだったんですね〜いやーよかった!」
岡崎さんはニコニコと笑ってじゃあこれ早く終わらせて午後休充実させてしまいましょう!と作業の手を速めた。事務所のためにも、やっぱり千さんと和解出来て本当によかったなと思い私も作業に没頭した。この先も夏のコンサートツアーが始まるし、マネージャーとアイドルは四六時中と言っていいほど時間を共有させるだろう。よし、と声を漏らすと聞こえていたのか岡崎さんが僕もよし!と楽しそうに声を漏らした。
その後、作業に目途が経つと私は退勤し、家に戻る途中ショッピングモールに寄ることにした。
「(あ、これこの間の取材のときの雑誌…!私まだ雑誌になった状態でチェック出来てなかったんだよなあ……)」
本屋に行くとアイドル誌が並ぶコーナーにはRe:valeを中心に他のアイドルさんが煌びやかに表紙を並ばせていた。そういえば、私Re:valeのことについてまだまだ勉強不足だったんだ……。そう思うと、過去に出していたRe:vale3周年を記念に出したムック本を手に会計をした。よし、帰ろうと思い買った本の入った袋を大切に持ちショッピングモールを出ようとしたらすみません、と声を掛けられる。振り返るとマスクをした色素の薄いピンク色の髪をしたまるで少年のような綺麗な男の子がいた。
「はい?」
「この辺、詳しいですか?」
「え?あ、まあ。」
「Bスタジオってどこにあるか分かります?新しいからかiPhoneのマップにも乗ってなくて…。」
「ああ、それなら分かりますよ!この辺り住宅地で分かりずらいのでご案内しましょうか?」
「え、いいんですか?」
「ええ、時間もありますし。ここからでしたら10分くらい歩くことになると思いますが大丈夫でしょうか?」
「はい。すみませんがよろしくお願いします。」
「いえいえ!じゃあ行きましょう!」
すごく、すごく礼儀が正しい人だな。私は恐らく年下であろう彼に感心しながらもショッピングモールを出て蒸し暑くなりつつある街中をゆっくりと歩き始めた。
「お姉さん、業界の方ですよね?」
「え?」
「スタジオなんて普通の人が分かるはずないですし、あとこれ。6スタの入館シール、貼りっぱなしですよ。」
「え!?あ、嘘!6スタ行ったの2週間前なのに…何で誰も言ってくれないの……、」
「あはは、ていうかこんな目立つところに貼ってれば自分で気が付きそうですけどね。」
「確かにそうですよね…不甲斐ないです…。あ、あなたは?」
「僕も同じ業界ですよ。」
「そうでしたか…!やっぱり、マスクしてても綺麗な人だなあって思ってました!」
綺麗な人、って男に言うことですかね?と目じりが少し下がったことからきっとマスクの下で笑っているんだろうなと思ってこちらも笑顔が移ってしまう。それにしても、この顔どこかで見たことがあるような……。
「マネージャーさんとかとご一緒じゃないんですか?」
「ああ、今日はレッスンしてから来たので別々なんですよ。」
「なるほど…努力しているんですね。凄いです。」
「別に当たり前ですよ。入れ替えが激しい界隈なので、ファンの人にずっと好きでいてもらえるようにいつだって必死です。」
「はあ…すごい。お若いのにちゃんとしてる。」
「ふ、お姉さんはこの業界長いんですか?」
「いえいえ!実は4月から勤め始めた新卒なので、まだまだ勉強途中です。」
「ああ、そうなんですね。じゃあ平日のこんな時間にショッピングモールにいたってことは今日はもう帰りだったんですか?」
「そうなんです〜!久しぶりにちゃんとお休み頂けたので本屋さん寄って帰ろうと思っていて。」
「買えたんですね、Re:valeのムック本。」
「え!あ、見えちゃいました?」
「ええ。もしかしてRe:valeのファンとか?」
「いえ、私の担当なんです。」
そういうと少年はびっくりとした様子で私のことを見た。もしかしてRe:valeとお知り合いだったりしたのかな……?
「Re:valeのマネージャーって言ったらあのメガネの男性だった気がするんですけどその方は?」
「ああ、岡崎さんはもちろん変わらずいらっしゃいますよ!私はそのアシスタントマネージャー的な感じでお仕事しております!」
「へえ……。」
「もしかして貴方もRe:valeと面識があったりするんですか?」
その質問をすると少年は立ち止まり、私も思わず足を止める。あの…?と聞くとゆっくりとマスクを外した。……どこかで見たことがある気がする。
「すごく、お世話になってますよ。Re:valeさんには。」
「……そ、そうでしたか!あ、あなたもすごく綺麗な方だからさぞ人気な方なんでしょうね…!」
「え、僕のこと知らないの?」
「へ!?あ、まってください……思い出します…………、すみません、この業界に入ってまだ疎くて、」
「ふっ、あはは、ごめんね。僕はTRIGGERの九条天。」
「っTRIGGER!そうださっき書店で表紙になっているところを拝見しました!ああすみません…直ぐにお名前出ずに失礼なことを……!」
「いいよ、久しぶりで新鮮だった。貴方のお名前は?」
「わ、私は辻川みのりと申します!今後ともよろしくお願いいたします!」
「うん、よろしく。」
ニコッと笑って手を差し伸べた九条さんはあまりにも美しすぎて天使のような、女神のような……もはや同じ人間とは思えない綺麗さだった。私はおずおずとその手を取るとまたくすりと笑われてしまった。
「あ、えともうすぐ着きます!」
「ありがとう。辻川さん、またお会いした時にはちゃんと覚えててね。」
「忘れませんよ!九条さんみたいな綺麗な人!」
「綺麗、って…まあいいけど。あ、スタッフいた。ありがとう、ここで大丈夫だよ。」
「よかったです!頑張て下さいね!」
「うん。じゃあまた。」
「はい!お疲れ様です!」
天使はもう一度マスクをしてあと100mほどの距離を歩いて行ってしまった。何だかいい日だったなあと思いながらも、私は逆方向に戻り家への帰路を歩いた。