全然待ててなかったよ
夏のコンサートツアーもいよいよ残すところは今回の東京公演のみ。季節も気が付けば秋となり、コンサートスタッフたちもこれで最後になるのか、という寂しさと早くも達成感に見舞われつつ彼らはアンコールの舞台に立つ。私にとっては初めてのライブツアー、沢山思い出も出来たし、最初は急に曲を増やしたいとか無茶ぶりもあったけどそれも来たお客様の顔を見たらやっぱり大成功だったと思える。そして何よりも彼らは誰が見てもトップアイドルだった。
「ありがとうございました〜!!」
「また会おうね〜〜っ!!」
舞台を降りてきた2人はスタッフとハイタッチを交わす。私も並んで両手を差し出すとまず百さんと目が合い顔をくしゃくしゃにして笑いながらみのりちゃん〜!!と名前を呼びながらぎゅっと抱きしめてきた。
「ありがとう〜!!おわったよ〜!!」
「お疲れ様ですっ!すっばらしかったです!」
「んん〜みのりちゃんと回ったツアーすっげ―楽しかった!」
「私もですっ!」
「おつかれえいて、いていていて!ちょ、ユキ!」
「モモ、くっつきすぎ。」
「あーもう、仕方ない。ユキに譲る!」
そう言われて私は百さんにトンっと押され、千さんの胸元へとダイブしてしまう。私は慌てて離れようとしたけどそれは叶うはずもなく、そのまま抱きしめられてしまう。何だか変な話だけどこうして千さんに抱きしめられるのも何回もあったからかこの温かさも匂いも懐かしさだったり安心する気持ちになる。舞台裏で最後尾にいたからそこまで人がいないとはいえ、誰がいつ通るか分からないこんなところで長時間この腕の中にいてはいけないと分かっているのに、全然離れたいと思わないなんて…私はダメなマネージャーかもしれない。
「千さん、お疲れ様です。」
「ん、みのりがいてくれてよかった。」
「私もこうして2人と出会えて本当に良かったです。」
「……ねえ、もう充分待たされたと思うんだけど、いい?」
「いいって何が、」
私の返事もなしに千さんは私の唇を奪った。触れ合うだけ重なり、目を閉じる暇もなかった私は1回離れた時に見えた千さんの綺麗な顔が視界いっぱいに広がったと思えばまたゆっくりと近づいてきたので次はしっかりと瞳を閉じた。千さんの背中に回していた腕をぎゅっと握り2回目のキスを受け入れた。次はただ重なるだけじゃない、私の口内に千さんの舌がぬるりと入ってきて自分のそれと絡まる。やばい、千さんめっちゃキスうまい。気を張らないと声が出てしまいそうで私は必死に千さんに縋った。
「ま、んんっ、」
「ん、かわい」
「っ〜〜、ふぁ、ゆ、きさ、」
「……名前呼ぶのはずるい。」
勃ちそう、と言いながら唇が離れたと思えばまた強く抱きしめられた。さっきまで舞台にいたトップアイドルの姿はそこにはなく、ただの年相応の男の人だった。