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目が覚めたら見覚えのない真っ白な天井だった。辺りを見渡すと空気洗浄機がぽこぽことたかれており、清潔な空気に嫌な気持ちはしなかった。そわそわとベッドから降りるとテーブルにメモがあった。

【目が覚めたら連絡ください。080-××××-×××× 陸】

「そうだ…私昨日……、」

夢じゃなければあのりっくんと再会をして、信頼していた工場長が私を追いかけまわしたところをりっくんが助けてくれたんだっけ。ふと目の前にあった全身鏡に写り込んだ自分を見ると酷い顔をしていた。でもあれだけのことがあったのにどうしてか気持ちはすっきりとしている。ふう、と息を吐いてサイドテーブルに置いてあったバックの中から携帯を探しメモに記載のあった電話番号を押した。

『もしもし?』
「あ、えと…みのり、です。」
『おはよう、よく眠れた?』
「…うん、あのここは……」
『ごめん、みのりの家分からなくてオレが住んでる寮に連れてきちゃった。そこはオレの部屋だよ。』
「……りっく、…ななせ、さんはどこにいるの?」
『あはは、何で七瀬さん?りっくんって呼んでよ。』
「…だって知らない人みたいだから。」
『そんなことないよ。今隣の部屋にいる、今から行ってもいい?』
「……うん。」

じゃあ行くね、と言ってりっくんは電話を切った。そういえば私、昨日大泣きしたからひどい顔してるのにこんな顔でりっくんと会うのかあ…と少しだけ気が重くなる。でももうここは彼のパーソナルスペースだ、逃げも隠れも出来ない。ちょこんと立った前髪だけでも、と思いくいっと髪の毛を引っ張っているとコンコン、とノック音が聞こえた。はい、と遠慮がちに言えばゆっくりと扉が開く。

「おはよう。」
「…おはよう。」
「喉乾いたでしょ?これ、水。」
「ありがとう。」
「お腹は?空いてない?うちコンソメスープと野菜類だったらあるから言ってね。」
「…大丈夫。」

りっくんは優しい。それにやっぱりかっこいい、だからそんな人の前にいる自分がすごく嫌だしすごく惨めに思ってしまう。こんなにも良くしてもらってるのに、こんなのことを思ってしまう自分が情けない。…情けないなあ。

「りっくん。」
「ん?なに?」
「……ありがとう、あの…いろいろ、助かりました。」
「どういたしまして。でもストーカーを退治したのはうちのマネージャーだから残念ながら俺は何もしてないんだけどね。」
「そんなことないよ、りっくんがいたから私…本当に感謝してます。」

頭、上げて?そう言われて私は深々と下げた頭を上げる。ゆっくりと伸ばされた腕は私の背中にぎゅっと回り本当に軽く触れあう程度に抱きしめられる。だけどその温もりは、人の温かさは久しぶりで。またどうしようもなく涙が溢れてきそうになった。

「本当に無事でよかった。…みのり、俺ね、ずっと君に言いたかったことがあるんだ。」
「…何?」
「……あの時、いきなりいなくなってごめんね。俺、別れも言わず急にあの街からいなくなることになって…みのりと会えなくなるなんて思わなかったんだ。引っ越しするって聞いて、お母さんが謝った理由が分からなかった。だからずっと後悔してた、…君に謝りたかった。」

ごめんね、そう言ってりっくんは少しだけ、ほんの少しだけぎゅっと私の背中に回した腕の力を強めた。謝ることなんて1つもないんだよ、私は大丈夫だよ、そう言ってあげたいのにもう私は言葉にするほど余裕がなくて。何か一言でも発すれば泣いてしまいそうで。そっとりっくんの背中に腕を回した。
ギュッと抱きしめ返すとりっくんはまた私の名前を震える声で呼んだ。