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それからりっくんの部屋を訪れたのはあの時に助けてくれたスーツの人と女性の人。慌てて2人して距離を取ったけどきっと抱きしめ合ってたのはバレてしまっただろうなと思うとまた少し恥ずかしくなる。そんな私たちを見て男の人がお邪魔だったかな?と少しふざけまじりで言った。

「そんなことないです!ね、みのり!」
「う、うん。あの、昨日は」
「大変だったね、体はもう大丈夫?」
「はい、ご迷惑をお掛けしました。」
「怖かったですよね、本当に無事でよかったです。」

まただ。人の優しさに慣れてない私は真っすぐな言葉と視線に思わず目を反らす。ありがとうございました、と小さな声で言うとどういたしましてと男の人が言った。ここにいる人はみんな温かい。

「そうだ、君、陸くんの幼なじみなんでしょ?」
「…そうなの、かな。」
「小さいころからの友達ではあります!」
「今は1人暮らし?」
「はい。」
「じゃあまだ家にいるのは不安でしょ、しばらくここにいてもいいからね。あ、でもさすがに陸くんと同室っていうのは寮生活的に認められないから小鳥遊さんのお部屋にお泊りはしてもらうことになるけどいい?」
「私はいいです!」
「え、いや大丈夫です。もう帰ります。」
「みのり、ここにいてよ。俺もみのりのこと1人にしておくの不安だしさ。」
「……私、面倒なので。」

自分から言いたくなかった、本当のこと。食べるものも、寝るときの条件も、洗濯だって気を遣わないといけない。そんな面倒なお荷物、1人でいた方がいい。私はベッドから立ち上がり3人の横をすり抜けようとしたらりっくんに腕を掴まれる。さっきより強い力だ。

「面倒じゃない。」
「……りっくんが1番よく分かってるくせに。」
「面倒だなんて思ったこと一度だってないよ!」
「そんな嘘いらないよ!私は…お母さんにだって捨てられて、もう……また捨てられるくらいならもう何もいらないの。」

だから離して、そう言ってもりっくんの掴む腕の力は緩むどころかどんどん強くなって少し痛いと思うほどだった。振り払っても左手を遣っても、力の差なのか腕は離れない。はなして、何回も小さい声で言った。すると女性の人が七瀬さん、みのりさんの腕が赤くなっちゃいます。と声を掛けようやく解放される。その腕にはくっきりと跡が付いていた。

「本当に、ありがとうございました。お世話になりました。」
「……みのりさん、」
「お元気で。」

ばいばい、りっくん。あの頃言えなかった言葉。
私はしっかりとそう言って部屋を出た。











その場所を出ると自分の住んでいる地元よりもずっと栄えている街景色。りっくんはこういうところで過ごしているんだな、そう思いながら地図アプリを見ながら電車へと歩いた。
夢みたいな出来事だった。全部、全部。

駅が近づくと大きなビルのディビジョンにiDOLISH7が映った。そのセンターには確かにりっくんがいて、もうこうしてテレビ越しでしか会えない彼を見て苦しくなる。

「すきだよ、りっくん、」

大人になっても、私は君が好き。ふと零れた言葉は誰に聞こえるわけでもなく街中に溶ける、そう思っていたのに。

「バカみのり、」
「っな、」
「俺も好きだよ。大好きだ。」

りっくんの優しい愛の言葉に私は顔を歪めて笑った。