おまけ


「どうしよう一織ぃ!」
「……どうしようもこうしようも、みのりさんにそういえばいいでしょう。」
「それが出来たら苦労しないんだって!」

すっかり俺とみのりの仲は公認で、気が付けば付き合い始めて半年が経っていた。とはいえ俺も仕事が忙しいしみのりだって仕事があるから会えるのは月に2回くらいで、しかも寮で少し話したりするくらい。アイドルの恋愛ってこんなに制限があるなんて知らなかった。
まず@絶対にバレないこと。A外ではなるべく会わないこと。B噂が出回ってしまったら落ち着くまで会わないこと。他にも10の約束を強いられた。その約束はみのりも聞いてるから彼女がそういう約束を破るはずがなく…俺たちは超々質素なお付き合いをしていた。
それでもみのりと会えるのが嬉しかったし、楽しかった。大好きな女の子と一緒にいれるだけで幸せになれるんだ。だけど、もう半年。……一緒に居る以上のことを、出来たらしたい。
ハグは何回だってしてたけど、実際にみのりとあれしたい、これしたいと強く思い始めてからは全然できなくなってしまった。

「じゃあ七瀬さんはみのりさんがキスしたいって言うまで待ってるんですか?」
「そ、そんな…んじゃ、ないけど、」
「男がいかなくてどうするんですか。全く情けない。」
「と、年下のくせに生意気だ!」
「そんな年下に相談してきたのはどこの誰ですか。」

ぐうの音も出ない俺は一織の正論に返す言葉もなく小さな呻き声を出しながら帰りのロケバスに乗った。変な声出すのやめてください、とまたグチグチと一織が言ってきたけどもう聞く耳にもなれなくて窓に項垂れながら目を閉じた。
ああ、みのりに会いたいなあ。







「せさん……七瀬さん、起きてください。」
「…ほあ、つい、た?」
「そうです寮ですよ。全く本当にどっちが年上何だか……。」

俺は眠気まなこで車から出て一織の後を歩いて寮に入るとおかえりなさい、と大好きな人の声に勢いよく顔を上げた。

「みのり!?」
「おかえり、りっくん。」
「ど、どうして…?今日仕事だって…」
「あ、ごめん連絡したんだけどお仕事だったよね。私今日16時に上がることになって、明日も遅番だし仕事後こっちに来たの。一織くんもおかえり。」
「ただいま戻りました、もうみのりさんみのりさんってずっと言ってたんですよ、七瀬さん。」
「な!そ、そんなことないだろ!?」
「どの口が。じゃあ私はここで。」
「え、一織くんご飯は?」
「我慢できなくてロケバスでお弁当食べてしまったんです。だからご心配なく。」
「そっか、ゆっくり休んでね。」
「ありがとうございます。」

淡々と一織とみのりが喋っているところをぽけっと見ているとみのりが俺の名前を呼んだ。ああ、どうしよう。すっごい可愛い。会えると思ってもいなかった突然の供給に自分の心が追いつかない。

「りっくん、疲れてる?」
「……キスしたい。」
「…へ?」
「……え?」

2人の間に一瞬の沈黙が流れ、俺もみのりもその言葉の意味を垣間見えると顔がカッと赤くなった。な、なに言ってんだオレ…!そもそももっとこういうのはムードのあるところで、ムードあるタイミングで言わずともスマートにするもんだろ…!なのにここは共用スペースで、しかも俺は仕事後のへたった状態だしもうほんと最悪。

「あ、えと…これはなんていうか、その……」

言い訳を考えようと必死に頭を抱えていると顔を赤くしたみのりが近づき、唇をぎゅっと噛みしめると目を閉じた。

「へ…?」
「…………」

これってつまり…?そういうことでいいんだよね…?
逸る気持ちを抑えながら陸はみのりの震える肩にそっと触れる。2人の唇が重なるまであと数センチ―――。





end.