声をかけられる


今日は野球部の予選大会が行われる日。私は先発で高瀬選手が投げると聞いてもの凄く楽しみにしていた。
雲ひとつない晴れ間、日焼け止めを家で1回、更に球場最寄駅で塗りながらスタンドに座る。勿論帽子もしてスポーツドリンクに冷タオルの準備もバッチリだ。まだ5月下旬とはいえこれだけ日差しが出ていると自然と気温が上昇し夏のような暑さが染み渡る。高瀬選手に影響ないといいなぁ、と手持ち扇風機を回しながらグラウンドに出てきた選手たちを見ながら今日も勝利を願った。


去年も思ったけど大学の予選会って意外と盛り上がらない。高校野球の方がもう少し活気があったような気がする。観客席の埋まりもまばらで少し寂しい気持ちになる。



それでも高瀬選手がマウンドに上がれば私のテンションは一気に加速する。声には出さないけど小さく拍手なんかしちゃって、プレイボールの声に両手を合わせてぎゅっと握りしめた。


「勝てますように」


頑張れ、高瀬選手。











試合終了。


結果は6-0でうちの勝利、高瀬選手は見事完封をし最高の試合を見ることが出来た。

「次の試合は、明後日…相手は、あーー……泉くんがいるところかぁ」


トーナメント表とレギュラー表を照らし合わせて見るとさすがと言えるだろう、1年でレギュラー入りをした泉くんの名前があった。

高校の大会でも高瀬選手があの戦い以降西浦と戦うことはなかった。だから実質これが3年振りとなる西浦のメンバーとの再戦。………いまだに鮮明に思い出す、高瀬選手の涙。


「はぁ……、泉くんには悪いけど今は完全に高瀬選手の応援しちゃうなぁ……」


複雑な気持ちを抱えながら私はスタンドを去り駅へと向かおうとした。その時だった。





「あ!」
「………」
「なぁおい!田崎の友人!」


田崎、……華の友人、ならわたしのことだろうか。こんなところに知り合いがいるなんて思ってもなかったけど振り返るとそこにはーーー高瀬選手がいた。

わたしはまた思わず後退り逃げの体制になろうとした時、待て待て逃げんな、と走ってこちらに向かってきた高瀬選手に腕を掴まれてしまった。こんな、こんなに近距離で高瀬選手を見たのは初めてだった。


「予選、見にきたんだ」
「っ……は、い」
「こんなクソ暑い中野球観戦って女子はしんどいっしょ」
「別に、慣れてるんで」
「へえ、野球好きなんだ」


好きなのは野球じゃない。いや野球も今は好きだけど、野球をしてる高瀬選手を見るのが好きなんだ。だけどそうとは言えずわたしはこくりと頷くと帽子の上から頭を撫でられありがとな、と爽やかな笑顔を向けてくれて正直心拍停止寸前だ。


「なぁ、名前なんていうの?」
「え、と……名乗るほどの者では、ない、デス」
「は?いや名乗れよ」
「た、高瀬選手のことは、陰ながら応援させて頂きますので」
「んー確かみのりっつーのは田崎の口から聞いた気がすんなぁ」
「ひ、!や、いやちが、違います!」
「はは、顔真っ赤。このままだと俺みのりって呼ぶしか選択肢ねえんだけどいい?」
「っ〜〜だ、だめです、辻川、です、せめて辻川で、いや明日には忘れてもらって構わないんですけど」
「辻川な、んじゃまた応援頼むわ」


そう言って高瀬選手は走っていってしまった。応援なんて、この先高瀬準太が野球を続ける限り草野球でもしに行く。わたしの1番大好きな、野球選手だ。