不意打ちに弱い


予選会は順当に勝ち進み、うちの大学は例年通り全国大会に出場を決めた。神宮で高瀬選手の投球見れるの、楽しみだなぁ…とぽやぽや考えながら今日はしっかり授業を受けていた。

「みのり、久々カフェテラス行かない?」
「うん、行こう」
「何食べよっかな〜」
「この間食べたマスタードのお肉のやつ美味しかったよね」
「あーあれ美味しかった!」


授業終わり、私たちはカフェテラスに向かっている途中。見覚えのある後ろ姿にわたしは勢いよく鼻の腕を掴んで壁に隠れた。


「え!?なに!?」
「た、高瀬選手!」
「いたの?みのりの高瀬先輩レーザーすごいな!」
「なんか、女の子と!」
「えー」
「ちょ、華!バレちゃうよ!」
「近付かないと会話聞こえないじゃん!」


2人の会話が聞こえそうなほど近付いて物陰に隠れる。人の会話を盗み聞きなんて悪いことをしているみたいだ。
高瀬選手の彼女、とかなのかな。すごい可愛い方だな、と聞くにしたって複雑な感情があった。


『私高瀬くんのこといいなって思ってて、今フリーだって聞いたから付き合わない?』




「うっわ、すごい自信」
「華!しーっ!」
「まああれだけ可愛ければ自信もつくか」
「…………」
「こりゃ高瀬先輩いくな」



そ、うだよね。あれだけ可愛ければ高瀬選手だって。
ツキン、と胸が痛む。でもこれは恋心ではない、大好きな芸能人に熱愛報道された時みたいなそれだ。ショックだけど幸せであれば良い、そんな気持ちで自分の心を落ち着かせるように
唇を噛んだ。



『あー、てか今俺がどんな状況か知ってる?』
『え?どんな状況って…、フリーとかそういうことじゃなくて?』
『いやフリーっつーのは合ってんだけどそれ以外』



そうだ、高瀬選手はこれから大切な全国大会が待ってる。恐らくそのことを言ってるんだろう、と思いながら女の人の言葉を待っていたけど本当に分からないみたいで2人の間に沈黙が流れた。



『わり、今じゃなけりゃ付き合ってたかもしんないけど今は無理だわ』
『えっ』
『つーか今付き合えると思ってる無神経な女は金輪際無理』
『な!?い、言ってくれなきゃ分からないし言ってくれれば私だって!』
『ごめんな〜じゃ』
『高瀬くん!』



「あっやばこっちくる」
「え」
「よぉ田崎、……辻川もいたのか」
「ひっあ、たかせ、せんしゅ」
「お前球場以外で選手はやめろよなぁ」
「先輩、いいんですかあんなに可愛い子断っちゃって」
「あ?いやそりゃ可愛かったけど俺は今全国大会前でピリピリしてんの、それくらい察しろって話だよな」
「まあ仕方ないんじゃないですか、女の子の大半野球に興味ないんですから」
「……寂しい」
「え?」
「あっいや」
「野球楽しいのになぁ、辻川〜」
「……野球してる高瀬選手が1番かっこいいのに、分かってもらえないの寂しいです」



マウンドに立って帽子を深く被りシンカー投げて三振を取った時に出るガッツポーズ、あの瞬間の高瀬選手が1番かっこいいに決まってる。なのにそれを知らないで高瀬選手を好きだなんて勿体無いし、寂しい。


「高瀬先輩、顔赤いですよ」
「っせーわ、俺は不意打ちに弱いんだよバーカ」


それだけ言い残して高瀬選手は行ってしまった。言った後恥ずかしくなって俯いてたわたしはその顔を見れなかったけど華がよしよし、と頭を撫でながらわたしの手を引いてカフェテラスに移動した。

お昼に食べたカルボナーラの味はあまりしなかった。