お前かよ
全国大会はベスト4で今年の夏は幕を閉じた。
最後はクローザーとして出てきた高瀬選手も好投していたけど前半の5失点がデカすぎた。そして最後の打席が2ランホームランとなってしまい4:7で試合終了。悔しくてたくさん泣いたけどまだ高瀬選手の野球は見ていられる、高瀬選手が野球をする限りわたしはーーー。
『みのり?』
「あ、ん?どうしたの?」
『だから明日大丈夫?って』
「うん!大丈夫だよ」
『じゃあ11時に下北ね!』
「うん!」
華と明日の約束を擦り合わせて電話を切る。夏休みに入ってから会うから久しぶりだな、と思いながらお風呂に入って早々に眠りについた。
【ごめん!ちょっとわたし風邪で行けなくなったからわたしの代わりの人呼んどいた!みのりも知ってる人だから!本当ごめんね!】
翌日。
待ち合わせの10分前に華から連絡が入った。風邪って大丈夫かな、というか代わりの人って、わたしと華の共通の友人ってたまにノートの貸し借りする可恵ちゃんじゃ…
「よ」
「え、!?え、」
「田崎のピンチヒッター、高瀬準太登場」
「え、え、え、」
「んじゃ行くか」
現れたのは高瀬選手だった。
当たり前だけど私服姿で何故か目の前に現れて、しかもわたしの手を引っ張って。突然のファンサに頭が追いつかなかった。
「た、かせ選手、」
「だーかーらー球場以外で高瀬選手はやめろって言ったろ?」
「えっ、と、」
「田崎みたいに先輩でもいいし、何なら名前で呼んでもらってもいいけど?」
「いや、高瀬さん、でお願いします」
「そ、つーか今日どっか行く予定あった?」
「え、と、カフェ…行って、古着屋さん、見ようって」
「んじゃそれ行こうぜ、俺カフェとか全然知らねえから連れてって」
その前に手を離してください、と小鳥の囀りのような小ささで言った言葉はなんか言った?と高瀬…さんの耳には届かなかった。
「ん〜クリームソーダで!」
「あ、えとアイスカフェオレ、でお願いします」
喫茶店に入ったけどいまだに目の前に高瀬さんがいること自体信じられない。夢なのでは、と思い何回かチラチラ高瀬さんの方を見るけど何回見ても高瀬さんは高瀬選手で足をバタバタさせたくなる気持ちを必死に殺した。
「辻川ってもしかして西浦出身だったりする?」
「ゴホッ、え、えと」
「前に1番と仲良さげに話してたろ、あと8決の時田島と1番といたのチームメイトが見てたから」
「や、あの、えっと」
「もしかしてそれでちょっと俺と喋るの気まずいみたいなのある?」
「………そ、れはないんですけど、……知られたら、嫌われるかなって、思って……黙ってました、すみません!」
「別に辻川が西浦出身だからって嫌いになる程器狭くねえよ。てかじゃあ何で俺と喋る時気まずそうにすんだよ!」
「う……だ、だって、高瀬…さんはわたしの推し野球選手、なんですもんっ」
「推しぃ?」
「推し、です!前に言ったと思うんですけど、……え、と、ファンなんです、高瀬選手の!!」
「ああ、でも別にファンっつったって俺はこうして辻川の前でカッコ悪くメロンソーダも飲むし講義もだりぃけど出るし変わんないだろ?もっと普通にしてくれよ」
「………がんばり、ます」
「うん。じゃあいつからお前俺の試合見にきてたわけ?」
思わず顔面蒼白になりカフェオレを一気飲みした私に高瀬さんは一瞬キョトンとした後吹き出して大笑いした。わたしはそれにびっくりして逆に目を大きく見開き大袈裟にパチパチと瞬きをした。
「お前わっかりやすいな、西浦戦だろ」
「っ……は、い」
「まあそりゃあ言いづらいよなぁ、あんな勝ち試合負けて最低の試合だったし」
「そんな」
「でもあれ見てよく俺のファンになったよなぁ」
「…………」
「そういやあん時も変な女いたなぁ、俺が泣きべそかいてるときに突然野球初めて見ました!とか言ってさ」
ドクン、ドクンと胸が鳴る。
もしかしたらそれはーーーーー。
「でもなーんか妙にそれ聞いて元気になったんだよなぁ。負け試合見て感動したとか何言ってんだって最初は思ったけど、気が付けば俺が頑張ればあの時の子はもっと喜ぶかもしれないって頑張る糧になっててさ〜って、辻川……?お前なんで泣いて、」
「っ、すみま、せっ……、」
「……は?え、いやまさか、」
「……っ、ありがとう、ございますっ……、高瀬選手のプレーを見てから、本当にわたしの人生、見違えるほど輝きましたっ…!」
「っ……ま、じかよ」
ありがとう、なんて言い足りないくらい高瀬選手に感謝の気持ちがいっぱいなのに、目の前に座る高瀬…さんが泣きそうな顔で笑ってお前かよって言うからわたしも同じように泣きながら笑った。