真剣に向き合う
『私、あの、……あの、今日初めて野球見て、本当に感動しました!あなたのプレーが、多分私の人生を変えてくれるような、感じがしました!結果は残念でしたが、私はあなたをずっと応援していきます!今日はありがとうございました!』
あの時のことはよく覚えている。
高2の夏の初戦。5回戦までは安泰と言われてた中で現れた俺たちのダークホース、西浦との対戦。リアルに半年間は悪夢のように何度も何度も夢に出てきた。3年経った今でもあの時のマウンドでの嫌な感じ、というのは鮮明に覚えている。
悔しくてだせぇけど涙が止まらなくて和さんと抱き合った後も止まらなくて。1人で人気のないところで泣いてた時だった。顔も見てないけど女に突然声を掛けられて。今俺泣いてんの見えねえのか?と非常識さに呆れることも出来ずいると興奮しているように嫌味に近いことを言われた。
正直その場で言い返したかった。
今の試合で感動したらそれは西浦の劇的勝利に対してだろって。それをわざわざ負け投手になんて言うなよ、馬鹿かよ。ああ、もしかして不甲斐ない俺への当てつけか。性格悪いなお前、ーーー言いたいことは沢山頭に浮かんだ。だけどその気力はなくて。
ただその女の言葉は無情にも俺の心に残った。
だけどそれは腐ってた俺を勇気付ける言葉になった。あのバカ女がまた俺を応援してくれて、勝てば喜んで次はどんな言葉を掛けてくれるんだろうと。顔も知らない女、いや何も知らなかったから逆にここまで言葉だけの情報を胸にやれたのかもしれない。
俺にとってあの言葉は神様からもう一度野球をする為に立ち上げさせるものだったのかもしれない。
まさかその神様からのプレゼントが辻川がくれたものだったなんて、正直信じられなかった。
「はぁ…、」
やばい。俺そんな女と恋愛出来るか自信なくなってきた。
その話を聞いた日から何となく辻川は俺が手を出してはいけないような存在になっていた。ベッドの上で軽くボールを上に投げながら気持ちを整理させる。
でも多分辻川以上に俺を野球ごと好いてくれる人は今後の人生で現れないだろう。それこそプロになれば沢山現れるかもしれない。だけど自分は分かってる、プロにはなれないということ。プロになれるなら高校の時ドラフト指名が来るはずだ、俺にはそれがなかった。まあ甲子園に1回しか行ってない、しかも初戦敗退の俺にそもそも声が掛かるはずがない。
だからこそあと2年、競技として本気で野球をできる今を大切にしたかった。それを邪魔してくるような女はいらなかった。もちろん相手が遊びならそれでいい、俺だって息抜きくらいしたい。
でも辻川と遊びで付き合うことなんて、
「絶対できねえ」
なら真剣に向き合う、それ以外ないだろう。