夢のような時間
【16時に大塚駅集合で】
時刻は15:30。夏も秋への準備を始める頃、帰りは少し寒くなるかもしれないと思って5分丈のゆるいオーバーサイズのTシャツに動きやすいパンツで髪の毛は一つにまとめた。無論自分自身もバッティングのやる気は満々だけど1番の目的はやっぱり近距離で見れる高瀬選手のバッティング。正直楽しみすぎて昨日の夜はなかなか寝付けなかった。
飲み物を2本買ってそわそわしながら少し早いけど駅で高瀬さんを待った。
「よ」
「あっお、お疲れ様です!」
「おー行くか」
「はい!」
現れた高瀬さんはユニフォームを着てなくてもやっぱりカッコよくてキラキラして見えた。背も高いからスタイルいいしシンプルな私服姿もモデルさんみたいなんだよなぁ、と隣を歩くのが少し申し訳なくなる。
「あちーな」
「でも夜は12℃まで下がるみたい、ですよ」
「まじで、俺普通にこれだけ出来ちゃった」
「か、風邪ひいたら大変です!寒くなる前に帰りましょう」
「んな柔じゃねえって」
つーか辻川ってたまに母親みてえだよな、と笑いながら横を歩く高瀬さんの顔を見たいような見たら死ぬかもしれないような…、少しだけ受け答えがまともに出来るくらいにはなってきた、ような気もするからあまり自分を見失いそうになるリスクは避けようとその顔を見ることは諦めた。程なくして歩くとバッティングセンターについた。
「おー空いてんなぁ」
「です、ね!」
「辻川も打つだろ?てか打てる?」
「シュミレーションは!してきました!」
「シュミレーション?」
「た、高瀬さんの動画見ながらリモコンぶんぶん、と」
「ふは、んで?俺の球打てた?」
「っ〜〜う、てま、せん」
「いやわかんねえよ、案外打てるかもなぁリモコンで」
「打てませんよ!!」
「んじゃとりあえず70kmくらいにしとくかぁ」
そう言って最初に70kmのボックスに誘導され私はバッターボックスに立つことに。まさか自分が最初に打つことになるなんて思ってなかったから緊張感が増す。
「バットもう少し下の方持ちな、肩幅程度足開いて背筋ピント伸ばす」
「は、はい!」
「球よーく見ろよ」
何やら機械音が鳴り、いよいよ球が放られる。高瀬さんのストレートはMAX151キロ、これは70キロ、いつも見てる球より遅いんだ。大丈夫、大丈夫!
「はっはっは!はい1アウト〜」
「ひえ、は、はやいいい」
「バッタービビってんぞ〜」
「うっ、」
「おら脇閉めろ、脇!」
「は、はいいい」
「は!ははは!」
結局わたしはノーコンバッターで1回かすることはできたけどヒットになることなく終わってしまい、たった10級なのに疲労をどっと背負った。バッターボックスから出ると高瀬さんはケラケラ笑っていて、まあその笑顔を見れたからノーコンバッターでもいっかという気持ちになった。
「んじゃ俺も軽くすっか〜」
「あ、あの!」
「ん?」
「ど…ど、動画撮ってもいいですか、あの!悪用はしないので!」
「……オレ高いけど?」
「は!はい!とりあえず手持ち1万円しかないんですがおいくら」
「ばーか冗談、好きにしろって」
そう言いながらしれっと高瀬さんが入ったのは130キロのマシンでギョッとした。わたしは70キロも早いと感じていたのに、やっぱり高瀬さんはすごい。
軽く体を伸ばした後、球が投げられた瞬間カキーン、と気持ちのいい金属バッド音。本当にホームランマークに向かって飛んでる。すごい、すごい!動画を回しているけど興奮で手振れがすごいのは分かっていた。だけど興奮を抑えられるわけがなかった。
「すごい!すごい!」
「大袈裟」
「かっこよすぎます……」
「……そーかよッ」
「わー!!センター返し!!」
「はは、んじゃ次はライト前ヒット!」
「せ、宣言通り!!すごいいい!!」
こんなに楽しい時間が試合観戦以外にあるなんて、夢のようだ。その後も夢のような高瀬さんのヒッティングショーは続き、また私のバッティング指導までしてもらって距離の近さにドギマギしてしまったけど最高の思い出になった。もうこれ以上ない幸せな時間だった。