それが恋だと認めてしまったら


後期が始まり、大学に通う日々がまた始まった。前期よりも授業を受ける教室が入れ替えのタイミングが合うようになったのか高瀬さんとすれ違うことが多くなった。その度に声をかけてくれて、笑いかけてくれるようになって華も何故か嬉しそうで私の大学生活は2倍、3倍楽しくなった。

そんな日々の中での出来事だった。
1人で履修してる科目の授業が終わった時に話したこともない子に声をかけられた。


「辻川、さんだよね?」
「へ?あ、はい」
「この後時間ある?」
「え、う、うん」


確か同じ学科のいつも可愛くて人気の子、だ。あまりにも自分との共通点がなさすぎてこうして呼び出されることに疑問しかなかった。後をついて歩くと誰もいない空き教室に連れられ、シンとする空間に戸惑いが隠せない。


「あ、の…?」
「突然ごめんね!私同じ学科の間藤里香です」
「あっ辻川B#ですっ」
「今日はおりいって辻川さんに聞きたいこととお願いがあってね、」
「何でしょう…!」
「高瀬先輩と、仲良いよね?」


高瀬先輩、って…高瀬選手、のことだよね。と頭で整理しようとしたら口に出していたようで間藤さんはそうだよ、野球部の。とにこやかな笑みを向けた。


「よく授業入れ替えの時に話してるでしょ?もしかして同じ高校だったのかなぁって」
「あ、いやううん!高校は違うよ!」
「えっそうなの?」
「うん!」
「じゃあもしかして付き合ってる、とか…?」
「付き!?な、ないない!私と高瀬選手がそんな!ないよ!」


私にとって高瀬選手はそういう対象ではないし、第一高瀬選手が私なんかを好きになるわけがないし。首をぶんぶんと横にすると間藤さんはびっくりした顔をした後、またふわりと笑った。女の子らしくて可愛らしい笑顔だ。


「そうなんだね、てっきり仲が良いからそうなのかな〜って思っちゃった」
「高瀬選手と私じゃ釣り合わないよ〜」
「ふふ、それじゃあここからはお願いなんだけどね、辻川さんに協力してもらいたくて」
「協力?」
「私、高瀬先輩のこと好きなんだ」


少し空いた窓から風が入った。すると間藤さんからすごく良い香りがして、改めて彼女をじっと見つめる。小さな顔、大きな瞳、日焼けなんて知らない白い肌、華奢な肩に女の子らしい格好。ふと高瀬選手のことを思い出した時、すごく、………すごく、お似合いだなって思った。



「私野球も見に行きたいなぁってずっと思ってたんだけどね、やっぱり1人で行くのに勇気が出なくて……。ほら、いつでも行けるように日焼け止めも飲む日焼け止めもアームウォーマーもさして良いなら日傘もと思って持ち歩いてるの!やっぱり高瀬先輩を知るなら野球してる姿は見なきゃいけないよなぁって思って」
「……………」
「辻川さん、多分野球観戦行ってるよね?この日焼け、見ればわかるよ」
「……あ、うん」
「今度一緒に連れてってほしいな」


にっこりと笑う間藤さんにわたしは頷く他なかった。すると両手をギュッと握られありがとう!ってまた甘い香りのする彼女にズキンズキン、と心を突かれるこの感情を必死に知らんぷりした。

だってそれが恋だと認めてしまったら、今も、これまでの私と高瀬さんの関係も全て壊れてしまいそうで怖かったから。