ごめんなさい


それから私は高瀬選手とも間藤さんとも一度も会話をしていない。正確には高瀬選手のことはもの凄く避けてしまっている。移動時間も姿が見えれば女子トイレに駆け込み、校内では絶対にすれ違うことは愚か、視界にも入らないように努めた。連絡も通知を切り完全シャットアウト。運が良かったのは全国大会が終わった後で大きな大会はまだないことだった。



「みのり、高瀬先輩にめっちゃ会わせろって言われるんだけど」
「………ごめん」
「何があったか知らないけどさ、ただ理由も言わず逃げ続けるのは相手にも可哀想だと思うよ」
「……そう、だよね。失礼、だよね」
「……何があったの?」


華は心配そうに聞いてくれたけど、これは私の気持ちの問題で高瀬選手が何をしたとか私が何かしたから気まずいとかそういう話ではない。大丈夫だよ、とだけ伝えると華は少しだけ寂しそうな顔をしてそっか、と言った。


「もしかして最近高瀬先輩の近くうろちょろしてるあの子関係してる?」
「……ううん、違うの。本当に私の気持ちの問題だから」
「っはっきり言いなよ!あの子に先輩のこと譲ろうとしてるんじゃないの!?」
「……間藤さん、は野球のことも好きだし高瀬選手と話も合うし可愛いし、私なんかといるよりずっと楽しいと思うよ」
「それ先輩が言ったの?」
「……ううん」
「違うよね?だって最近の先輩、すごい疲れてる」
「え?」
「あの子、少し相手してもらえたからってすごいぐいぐいいってるみたい。他の野球部員とかにも話しかけて外堀埋めて。完全にから回って余計なことしてる。みのりが好きな高瀬選手の野球の邪魔してるかもしれないんだよ?それでもいいの!?」
「っ…………」



そんなこと言われて、でも私はただのファンだからなんて逃げることなんて出来ない。私はごめん、と言って走り出した。



高瀬、さん。
勝手に避けるようなことをして、良かれと思ってしたことがマイナスになるようなことをして、ーーー好きになってしまって、ごめんなさい。


全部伝えて、フラれて、また敵サイドのベンチでこっそり見るファンでいさせてもらいたい。


私は非常識にも初めて野球部の部室まで辿り着き息を整えるように近くのベンチに座った。これくらいのダッシュで肩で息をしてしまうなんて笑われてしまうな、と思ってた瞬間。



「やっと捕まえた」


後ろから抱き締められるように肩にギュッと腕が回る。振り向かなくても声で、分かる。


「っ高瀬、せんしゅ、」
「……バーカ、ここはギリ球場じゃねえだろ」



耳元に近い距離で聞く高瀬さんの声は電話よりももっと近くて、背中に感じる温もりは自分よりも数度温かくて、ずっとこうしていたいって思った私は本当にわがままになってしまったのかもしれない。