2004年、夏


2004年、夏。

「よーみのり、起きんの遅くね?」
「………マイキーくんこんな朝からきて家の人の迷惑とか考えないの?」
「迷惑してる?俺」
「いや?」
「大丈夫よマイキーくん、朝ごはんは食べる?」
「食べる〜」
「もう圭兄もお母さんもマイキーくんを甘やかさないでよ!」


休日の朝8時、起きてリビングに行くと当たり前のようにマイキーくんがいた。みのりは慣れ親しんだ人とは言えパジャマ姿の寝起きを他人に見られるのは少し恥ずかしく避けるように洗面台へと逃げた。
本当デレカシーのない子供、ドラケンくんを見習ってほしい。顔を洗い軽くスキンケアをした後に髪の毛をとかしトリートメントを施す。髪は自分にとって大切なアイデンティティだ。それに圭兄と似た髪質であることが何より嬉しくていつも綺麗に保つことが自分の中で毎日のルーティンとなっていた。


「お、ちょっと顔薄いけどいつものつるつるのみのりだ」
「……一言余計だから」
「なぁアイス買ってこいよ」
「は?嫌だけど」
「アーイースー」
「自分で買ってきなよ!」
「お前年下だろ!こういうのは年下が買ってくるって決まってんの」
「そんな決まり聞いたことないし」
「なぁ場地?」
「あー?……仕方ねえなぁ、みのり、一緒に行くか」
「………圭兄と一緒なら行く」
「あーなんて言うんだっけ、こういうの…ブ……ブ………あ、ブラコン!」
「マイキー嫌い!」


みのりは部屋に戻って部屋着を脱いでお気に入りの水色のワンピースを着る。マイキーに嫌いって言ってけど圭兄と出かける(と言っても近くのコンビニだけど)口実が出来たのだけは少しだけ感謝する。鏡の前に座り眉毛と軽くアイメイクとリップをのせ髪の毛を一つに束ねてシュシュをつける。よし、かわいい。自己暗示は大切だ。
おーいみのり〜?と名前を呼ばれたところではーい!と返事をしてドタバタと部屋を出る。リビングにいたマイキーと目が合うとデートか!とツッコミをされたけど無視をしみのりは玄関で待つ兄の元へと走った。

「おまたせっ」
「……この服着たことあった?」
「ううん、お母さんがくれたの。どう?」
「いいじゃん」
「ふふ、嬉しい!圭兄、髪暑くないの?縛るゴムあるけど」
「あー借りていいか?暑いと思ってたんだよ」
「もっちろん!」


圭兄と他愛もない話をしながら歩くお出かけが何よりも好きだった。この時間だけは私だけの圭兄だ、何から話そうかなと思っていたその時。

「あれ、千冬じゃん」
「!場地さん!!」
「おー何してんだ?」
「暑いんでコンビニでアイスでも買いに行こうかなと思ってたっス!」
「まじか!俺らと一緒じゃん、じゃあ一緒に行こうぜ」
「え」
「まじすか!お供します!」
「はは!お供ってお前桃太郎じゃねーんだから」

楽しそうに笑う2人とは裏腹にみのりの心中は穏やかではなかった。せっかくの2人きりの時間をこいつに邪魔された、こいつは学校の放課後いつも圭兄と一緒にいるのに。前を歩く2人の間を割り込むように入りみのりは場地の腕をギュッと掴んだ。

「んだよみのり、暑いだろ」
「圭兄の腕掴まないと歩けないもん」
「さっきまでそんなことなかったろうが」
「さっきはさっき、今は今!」
「ったくよー」
「場地この歳になってもそんなに兄貴にベタベタなのかよ?」
「松野は煩い黙って」
「は?」
「松野って誰?」
「いや場地さん!俺っす!俺松野千冬!」
「千冬は千冬だろ?みのりもそう呼べよ、いいだろ?千冬」
「え、あ、…まあいいっすけど…」
「あとお前もみのりのことはみのりって呼べよ、場地って呼ぶと俺が呼び捨てされてるみたいだろ」
「そ…っすね、場地さんが言うならそうします!」
「松野に名前呼ばれるの嫌」
「千冬」
「……嫌」
「みのり〜お前兄貴の言うこと聞けない悪い子だったか?そんなの俺が好きなみのりじゃねえなぁ」
「っ……分かった、千冬って呼ぶから圭兄」
「ん、いい子だ」


千冬は正直こいつ誰だ…?と思うほどのみのりの場地の前でいる態度に困惑をした。いつもツンツンして前みたいな喧嘩腰は少なくなってきたものの笑いかけられたりはしないからこそ今のみのりとのギャップに頭を抱えそうになっていた。
よく見れば今日の服も学校では見ないワンピース姿で髪型もアップにしてうなじが見えている。千冬も思春期真っ只中な為思わず唾を飲み込みみのりから顔を逸らした。





「あーー生き返るーー」
「涼しいっすね〜場地さん!アイスこっちっすよ!何にします!?」
「圭兄はいつも同じだもんね〜?」
「まあな」
「くっ…」
「そんなのも知らないの?千冬」
「っうっせ!これからたくさん知ってくんだよ!」


みのりの千冬に囲まれた場地はハァ、と少しめんどくさそうに息を吐きながらも楽しそうな顔を浮かべていた。