2005年、夏
2005年、夏。
「え?マイキーくんとドラケンくんとエマ来れないって…」
「え、こっちもみんな来れないって…」
去年のメンバーで海に行こう!ということになったーーーはずだった。しかし当日、いざ最寄駅に集まってみればみのりと千冬以外当日ドタキャンの嵐。みのりもそういえば兄が準備を全然してなかったことを思い出す。
「ど、どうする…?」
「どうするもこうするも…来たんだから海入ってくしかねえだろ」
「えー……千冬と2人で?」
「文句あんのかよ」
「……まあ、いいけど。じゃあ私着替えてくるね!ここで集合ね!」
「……おー」
【千冬ゥ、うまくやれよ】
【お前いい加減みのりに手だせ】
【千冬、漢見せろ】
【大丈夫だ、千冬。頑張れ】
千冬の元にはいくつものメールが届いていて頭を抱えた。おそらく今回のキャンセルは彼らが仕組んだものだろう、……せめて海じゃなけりゃもう少し冷静になれたかもしれねえのに。……またあいつ、露出度高い水着着てくんのかなぁ。
「あーー………」
冷静になろうとすればするほど心臓がバクバクと取れるんじゃないと思うくらい高鳴ってしまう。まずい、これまたあいつにバレたら馬鹿にされる。そう思った千冬は着替えながら何度も深呼吸をする。
2年になって更に女らしくなったあいつを男どもがほっとくわけもなく告白されることが増えたり変なやつに鍵回されたりすることが多くなったという。その度に俺や場地さんが威嚇するのに隠れたところであいつはまだ被害に遭うことも暫しある、らしい。
俺は、みのりのことが…多分スキだ。いつからかは分からない、ーーだけどいつしか俺にとってかけがえのない存在になっていた。
それはみのりを知る東卍の人たちにも、もちろん場地さんにも知れ渡っていて早く告白しろとか勝手に盛り上がっていて正直凄くやりづらい。そんな中の今日だった。
「千冬〜?」
「……!お、おお、」
「……何その顔」
「へ?あ、いや別に」
「……何かいやらしいこと考えたでしょ、千冬のえっち」
「っはぁ!?別に考えてねえし!いい気になるな!」
「……フーン、そんなこと言っていいんだ?」
「何言って、」
「ふふ、行こ?」
みのりは千冬の腕にギュッと絡み引っ張るように歩いた。去年は真っ白のビキニだったくせに、今年は黒かよ!とまずそこで頭を抱えたのに更に胸がチラチラ当たるように歩かれ気が気じゃない。
千冬に余裕なんて一切なかった。
「千冬〜?」
「お前まじで…頼むから離れて」
「えーー」
「じゃねえとまずい、から」
「……うん、」
みのりは千冬が何がどうまずいのかを何となく悟り腕を離した。何となく気まずい雰囲気が流れてしまったがみのりは海、入る?と声をかける。千冬はそれにこくん、と頷いてもじもじした2人は海へと歩いた。
「つめたっ」
「つーか泳げないってどのレベル?」
「え、25mギリ」
「まじか」
「でも浮き輪あるから」
「じゃあ奥までいこうぜ」
「うん!連れてって!」
側から見たらもう可愛いカップルだ。浮き輪にしっかりはまりみのりは海に浮かされるとそれを千冬が後ろから押した。気がつけば周りには誰もいなくなってて、この世に2人きりになったような変な気分になる。
これってまさに絶好の告白のチャンス、というやつなのでは…と千冬の頭にみんなの言葉が過るがなかなか勇気が出ないでいるとみのりが千冬、千冬!と名前を呼んだ。
「見て、こんぶ流れてる!」
「……ガキかって」
「圭兄の髪の毛〜〜」
「うっわ投げんなよ!」
「あ、それは圭兄の髪の毛だよ!」
「え!?場地さんの…ってちげぇだろ!」
「あはは!もーずっと千冬ったら考え事してるんだもん、顔変だよ?」
「……別に変ではないだろ」
「ふふ、へーん」
ニコニコと笑うみのりに千冬はどこか場地さんと重なるものを感じた。その時ああ、やっぱり兄妹なんだな、って思った。
結局告白が出来ないまま夏は過ぎてしまった。もう戻りたくても戻れない、ーーー辛く、悲しい…秋が来る。