2017年、秋


2017年、秋。


今日は兄である場地圭介の命日。お墓参りに行くとそこはすでにピカピカにされ花やタバコ、お酒にペヤング…様々なものが置かれていた。



あれから12年という時が過ぎ、私は27歳になっていた。高校を卒業して直ぐに就職を決意した私は地元を離れ新宿の中小企業の事務員として働いている。
兄を亡くしてからは直ぐに立ち直ることが出来ず学校にも行ったり行かなかったりを繰り返していたけど、正直どうやって立ち直ったかは覚えていない。


千冬とは兄が死んでから学校でも姿を見せなくなり、顔を合わせることも一緒に遊ぶことも無くなった。マイキーくんたちはたまに連絡をくれて気晴らしにバイクを乗せてくれたり、一緒に海を見に行ったりもしたけど千冬は一度もそこに同席しなかった。
避けられていたことには気が付いていた。きっと千冬なりにいろいろ思うことがあって、私に合わせる顔がないんだろうと思うとみのりも自ら声をかけに行くことが出来なくなっていた。そしてそれは次第と深い溝となり、千冬との関係は白紙に戻っていってしまった。



「圭兄、元気?1人で寂しくない?そっちに行くのはまだまだ先だけど、ずっと圭兄のこと思ってるからね」


側から見たら怪しいかもしれないけどみのりはお墓に声をかけるのをやめなかった。次第にあたりは日が落ち始め、そろそろ帰ろうかと思った時スマホが震えた。
通知はドラケンくんからだった。


【店寄れっか?】

シンプルなお誘い、だけど周りに兄を知る人が少ないので彼らからの連絡はとても嬉しくて胸が高鳴った。

【寄れる!今圭兄のところにいたからこれから行くね】

【迎え行こうか?】

【大丈夫!ありがとう】



みのりはバスに乗り電車を乗り継いでドラケンのお店に向かった。ドラケンのお店は何度か行ったことがあった為もう迷うことなくいけた。
お店の電気が付いている、みのりは扉を開きこんばんは〜と声をかけるとおー!と奥からドラケンくんが出てきた。

何も変わらない、ドラケンくんはいつでも優しくて第二のお兄ちゃんみたいな存在だった。



「久しぶりだな、元気だったか?」
「うん!元気だよ、ドラケンくんも元気そうでよかった!」
「おお、いや〜にしてもほんっといい女になったよなぁみのりは」
「よく言うよ、昔はマイキーくんと一緒にこき使ったくせに!」
「あはは、あの頃は王様だったからな〜こっち来いよ、店はもう閉めるから中で話そうぜ」
「うん!お邪魔します、あ、こんばんはいぬぴーさん!」
「…こんばんは、オレ邪魔だったら今日外行くけど」
「邪魔じゃない邪魔じゃない!」
「いぬぴー茶用意してあげてくれる?」
「うん」
「あ、ありがとう…凄くもてなされてる…」
「たりめーだろ、可愛い可愛い妹分が来るのは1年に1回なんだからさ」
「うっ…グサっとくるね……」


みのりはドラケンと懐かしい兄の話をし始めた。みのりが唯一兄のことを話す日でもあったこの日がここ数年は何よりも大切で楽しみな時だった。気がつけば時計はあっという間に0時を回り、その日は泊まらせてもらうことになった。


「ドラケンくん彼女とかいないの?」
「え、あーーいや今はいない」
「そっか、じゃあ泊まることに背徳感感じないでいれるからよかった」
「あーはは、そういうの気にしてくれんのね」
「当たり前でしょ?女の子の嫉妬は怖いんだから」
「確かにな〜」
「あれ、経験済み?」
「まあ、エマの写真見つかっただけでやんや言う女いたな〜って思っただけ」
「それは別れて正解」
「だろ?あーーエマいい女だったしいい女に成長したよなぁきっと」
「あったり前じゃん、……だってエマだもん。私も大人になって一緒に話したかったなぁ」
「で?お前は?」
「……何が?」
「かーれーし、今年は出来たのかよ」
「………出来てたらここ泊まると思う?」
「だよな〜何となく分かってたわ」


枯れすぎだろ、俺ら。と笑っているけど私もマイキーくんも過去に囚われてる人間だ。しかしみのりが囚われてるのは死んだ人間ではない。兄のことは前に進んでいる。ーーー進めていないのは松野千冬のことだ。


「千冬、会わねえの?」
「………あっちが避けたから、私からは会えないよ」
「でも千冬も千冬からは会わねえだろうな」
「……じゃあもう一生会えないね」

それ以上ドラケンは何も言わなかった。みのりはもう寝るね、と言ってリビングの明かりを消した。翌朝は早い時間に家を出て、一人暮らしをする家へと戻った。また来年に会えることを楽しみにして。