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寒さで今何時になったのか、千冬がお店を閉じてからどれくらい経ったのか…最早みのりには分からなかった。ただ待ってるから、と言ってしまったのだ。頑固な彼女に帰るという選択肢はなくお店の前に座り膝を抱え込んだ。
何となく、千冬が来ないことは分かっていた。裏口から出て行ったのかもしれない、だけど待っていれば翌日には表から来るだろう。そしたら朝食を一緒に食べに行けばいい。そこで話したいことがたくさんある。12年間、何してたの?何でペットショップの経営なの?喧嘩はいつやめたの?みんなと今でも仲がいいの?


それから、千冬が好きだと伝えたい。
実は中学の頃からずっと、ずっとずっと好きだったと伝えたい。



「、ちふゆ、」
「、っお前、バカなの?」
「っ…!あ、…お、つかれ。仕事、長かったね」


みのりの目の前に現れた千冬は息を上げて焦った様子だった。小さく膝を抱え込んでいたみのりの寒そうな首元に自分のマフラーを掛けると彼女は嬉しそうに笑った。


「ちげーよ!俺は、っ…俺は1回家帰って飯食って風呂入ってゆっくりしてたんだよ!仕事なんて定時でとっくに終わってる、……お前が待ってるっつーから、逃げたんだよ…」
「………そっか」
「なのにこんな時間まで、ほんっとバカじゃねーの……お前、……頼むからもうやめろって」
「……話しが、したいの」
「………話すことなんて」
「わたしがある、から…千冬、お願い。わたしに時間を、」
「、みのり?おいみのり!」


みのりの身体は冷たくもう限界を迎えていた。千冬は動物たちにするように脈拍数を確認し直ぐにみのりを背負いタクシーの走る大通りまで走った。店の鍵持ってくればよかった、と後悔をしつつもこの状態のみのりをほっとけるわけもなく千冬は自宅へと向かう。タクシーに乗ってる間も彼女の濡れて心底冷えた身体を優しくさすった。








家に着くと直ぐに暖房をマックスにして寝室から毛布を取ってくる。濡れたままの身体に巻きつけるわけにもいかないので千冬はみのり、と名前を呼んで肩を揺する。息はあるけど目はまだ閉じたまま、ーーー仕方ない。千冬は彼女の着ていたコートを脱がしその下の濡れていたニットも脱がす。その下にヒートテックを着ていたがそれは濡れていなかったので正直千冬も助かった、と息を吐いた。下のパンツは足元が特にびしょびしょだ、……こればかりは仕方ない。なるべく見ないように脱がすと目に悪い真っ白く伸びた足が惜しげもなく晒される。千冬は直ぐに自分のスウェットを上下ともに着せ、毛布をかけた。

多少強引にでも起こして温かい飲み物を飲ませたほうがいいと思い千冬は紅茶を作ってからみのりの名前を呼び先ほどよりも少し強めの力で肩をぐらぐらと揺らす。

「ん……ち、ふゆ…?」
「これ飲め、内から身体あっためなきゃ風邪ひくぞ」
「………ここは?」
「俺の家、お前寒さでぶっ倒れたんだよ」
「……あーそっか、」
「お前バカだろ。店閉まってから1時間経ったあたりで察しろよ」
「……でも結果として来てくれたから私の勝ちだよね」
「勝ち負けとかどうでも」
「千冬、……きてくれてありがとう」


みのりの笑った顔は兄場地圭介に似てる。千冬は懐かしいその笑みに思わず目を逸らした。12年がなんだ、俺は全然変われてない。


このままじゃダメだろ。



「話をしよう、……最後に圭兄が言ったことがあるの」
「…………実は俺も、」
「……俺も、何?」
「場地さんは…俺の腕の中で死んだ。……みのりに伝えなきゃいけないことがある」
「っ………な、に」
「………死の真相、知りたいか?」
「…………」



みのりは大きく息をはいて、頷いた。