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「せめー家だな」

彼を、家に入れてしまった。
ああさようなら、平凡な人生。明日のニュースで東京都にお住まいの女性が何者かに殺されてお亡くなりになりました、とか出るのかな。ははは、笑えない。
私は明るく電気をつけた下手で初めてしっかりと彼を見た。本当に若い、高校生だ。多分。黒と金色のメッシュだけでない、首元にはタトゥーも入っていて最早怖すぎて震えが止まったものだ。

「なーなんか着るもん貸せよ」
「………私の服しか、」
「彼氏のとかねえの?」
「………いないので」
「んだよ、じゃあいいや、なんかお前のでいいから貸して」

風呂借りるわ〜飯はガッツリがいいからよろしく〜だなんて緩く言いながら自分勝手にお風呂場に行ってしまったけど、もしかしてこれが最後のチャンスなのでは…?今警察に不法侵入者がいますって言えば…ワンチャン命は助かるんじゃ…

「あ、テメェサツに逃げ込んだら今後の人生どうなるか分かってるよな?」
「………は、い」

何故私の考えがバレたのか、しかしその目は本気で怖い人の目をしていた。だめだ、諦めてこの子の言う通りにするしかない。私は慌てて手を洗って彼の言う"ガッツリめのご飯"を作る準備に入った。








「おーいい匂いしてんじゃん、ねえドライヤーどこ?」
「……洗面所の右側のラックのボックスの中に」
「ん〜、ねえご飯何?」
「………親子丼、です」
「まじ?俺結構好きだわ〜」


それだけ言うと彼はまた洗面所に戻っていく。息が止まりそうだ。でも嫌いな食べ物を作っていなくて本当によかったと息を吐く間も無くお味噌汁と作り置きしてある胡瓜と茄子の浅漬けを盛り付け、呑気に買ってきた少し高めのおつまみとお酒はそっと冷蔵庫の奥に眠らせた。なんとか彼が戻る前にテーブルに食事を並べることができ、私は慌ててテーブル周りも簡単に片付ける。日頃から部屋はそこまで汚くはしてないけど朝メイクに使った化粧品とかはそのまま放置したままだ。
ああ、こんな慌ただしくも平凡な日常は明日から来ないのだろうか。


「お、うまそ〜」
「……どうぞ」
「お前食べねえの?」
「……は、い」
「なんで?自分の分作ってねえのかよ」 
「……あ、ありますけど」
「じゃあ食べればいいじゃん」
「…………」
「まあいいや」

いただきますも無しに彼は親子丼を口にする。そもそも今は絶賛生と死を彷徨ってる身として呑気にご飯を食べる余裕なんてないのだ。彼はうめーじゃん!!っと口にあったようでガツガツご飯を食べていく。よかった、もしかしたら命は救われたかもしれない。


「つーかあんたもバカだよなぁ!普通こんなガキ簡単に家に入れなくね?その場で助けとか必死に求めればよかったじゃん、暗くて人通り少ない道かもしんねーけど大声だせばどうにかなったかもしれないのにさぁ!」
「…………」
「もしかして俺に殺されるかも〜とか思った?あははウケる。今テメェ殺したら俺は前科もあるしサツに見つかったら一発KOかもしんねーのにンなリスク追わねえっつーの!」
「…………」
「あ、もしかして俺の顔がよかった?まあ実際この顔でバカ女どもの家渡り歩いてたんだけどさ〜あいつらバカだから直ぐ恋人だなんだって勘違いすんだよなぁ〜まじでうぜえ。テメーらは住む場所と飯と溜まった時だけセックスだけさせればいいっつうのによぉ、……はは、何。図星で泣いてんの?」





この涙は怖さから来るものではないことはバカな私でも分かった。彼の言う通りあの時大きな声を出して助けを求めなかった私への後悔と、虚しさと情けなさと、彼がとても寂しい人間だということに涙が流れ落ちた。