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今日はめずらしく仕事に詰まって定時から2時間も残業をしてしまった。帰ったら昨日の残り物を食べようと思ってたけど何も食べずに寝ちゃおう、もったいないけど残り物は破棄しちゃおう、揺られる電車の中でうつらうつらどうでもいいことばかり浮かぶ。
何だかこの3ヶ月はぼーっとすることが多かった。会社の人にも最近元気ないね、なんて言われることもしばしば。
一虎くんは、どこかで元気にやってるだろうか。優しい女の人にわたしのご飯なんかよりも美味しくて豪華なご飯を食べて涼しくなってきたから寄り添って寝ているんだろうか。うん、きっとそうに違いない。
まるで猫のようだった。野良猫をたまたま拾って、少しだけ一緒にいた。でも少しでも一緒にいた期間は少し情が湧くくらい大切なものに感じる。そう、わたしはもうわたしの人生に関わってきた一虎くんがただの野良猫じゃなくて大切な存在になっていた。
ただ寂しい彼がどこかで幸せになってくれればそれでいいんだ。
「……おせぇ」
そう思っていたのに、君はまた猫のように現れる。
「か、一虎くん…?」
「なにもう忘れた?」
「あっううん、なんか…夢かと思って……」
「はは、いや〜お腹空いたから戻ってきたわ!みのりの飯食いたいんだけど今日夜ご飯ななに?」
まるで昨日も会ってたかのようなテンションの一虎くんは3ヶ月前と変わらずあっけらかんとしていた。暗くてあまり表情は見えないけど元気な姿でまた会えたからよかった、とほっとする。
「今日は昨日の残り物しかなくてね、」
「なに?」
「えっと、ハンバーグとポテトサラダ」
「まじ!?俺が好きなやつじゃん!最高!」
「お味噌汁もつくるね。………一虎くん、おかえりなさい」
扉を開き玄関の電気を付けてから振り返ると一虎くんは何とも言い難い表情をしていて、それは不機嫌にも嬉しそうにも見えてもう一度名前を呼べば顔を隠しながらその場にしゃがみ込んでしまった一虎くんの表情はもう見えない。