記憶のある時のはなし
「すみません、急に本日付けの郵送物が出てきてしまって対応してたら時間少し掛かっちゃって……ってあれ?」
「あ、お疲れ〜!」
「お疲れさまです。」
「あなたは確か…IDOLISH7のマネージャーの、」
「大神万理です。ちょうど百くんに連絡をしていたら今日辻川さんとご飯に行くと聞いたので来ちゃいました、すみません。」
「い、いえ……。」
「マネージャー同士、仲良くしてください。」
「……!はいっ!」
通された部屋に入るや否や、出会ったばかりの大神さんがいて驚くのも束の間百さんにまあまあみのりちゃんはここに!と真ん中の椅子に座らされる。というか出会ったときは慌ただしい中だったから気が付かなかったけど、大神さんってめちゃくちゃかっこよくない?こんなに暗がりの中でも独特な雰囲気を醸し出す上に、なんだか近い距離に妙に緊張してしまう。カチンコチンの私に大神さんはくすりと笑って何飲む?と聞いてきた。
「えと、何がいいかな…私あまりお酒飲まなくて、よくわからないんですけど……、
「へえ、お酒は強くないの?」
「多分?」
「フルーツは?何が好き?」
「えっと……オレンジ………」
「じゃあシルビアにしておこうか。百くんは?追加、何か飲む?」
「俺はブルマリで!」
「了解。」
凄い……スムーズだ。大人の男性とのお酒の嗜みは実は初めてで、それだけでもドキドキしていたのに大神さんはあまりにもスムーズすぎる。私は緊張のあまり百さんをちらっと見るとニコニコといつもの笑顔を向けられた。
「万さん、優しいでしょ。」
「え、あ、はい。仲良かったの、知らなかったです。」
「俺は万さん信者だからな〜、」
「そんなに有能なマネージャーさんなんですか?」
「マネージャーというか、」
「まあまあ、飲もうよ。」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ今宵の出会いに、」
「「「乾杯〜!」」」
お勧めされたお酒をこくりと口に入れると甘くてフルーティーで凄く美味しいことに驚いた。これなら何杯でも飲めそう…と小さく声を漏らすと大神さんはくすりと笑いグラスをテーブルに置いた。
「それでもこれラムベースだから何杯も飲んだら酔っぱらっていけない人にお持ち帰りされちゃうから、辻川さんみたいにお酒が弱い人は2杯までがお勧めかな。」
「おも、ち、かえり……は、はい。」
「初心な反応、可愛いね。」
「っ!?な、な、!」
「ちょっと万さん!うちの子苛めないで!」
え〜別に苛めてないよ?と言いながらマドラーをくるくると回す仕草は何とも見てはいけないものを見ているようで思わず目を反らした。というか私は遊ばれているのか。
「お、おおがみさんは!マネージャー長いんですか?」
「万理でいいよ。」
「いや、あの、」
「俺もみのりちゃんって呼んでいい?」
「へ?あ、ええっとそれはいいんですけど、」
「じゃあみのりちゃん。」
「っ〜〜百さん!ねえこの人なに!?厭らしい大人!!」
「ぶっ、」
「あはは、それ褒められてる?」
「ほ、褒めてないです!わりと貶してるんです!」
2人は顔をうつ伏せて笑っているようだけど個人的に笑われるようなこと言ってないし何なんだ…という気持ちでいっぱいである。というか本当にどういう関係なんだろう…?ただの業界同士の友人ということでも無さそう…。
「あの、笑いすぎなんですけど。」
「あーごめんごめん、で?なんだっけ?」
「…大神さんはマネージャー長いんですか?」
「万理さん、ね。」
「…万理さん。」
「ん、まあ少なくともみのりちゃんよりは先輩だよ。凄くベテランというわけでもないんだけど、それなりにね。」
「へえ……というかそもそも百さんとはどういったお付き合いで?」
「ん〜百くんとは、そうだな……切っても切れない特別な縁、かな?」
「ば、万さんっ……!キュン!」
「ふざけてます?」
「はは、ふざけてないよ。まあ俺たちのことはいずれみのりちゃんもちゃんとRe:valeのことを知れば知ることとなるよ。」
「……Re:valeのこと?」
知らないだろ?Re:valeのこと、と言われてしまうと言い返すことが出来なくなる。
確かに私はRe:valeのことを知らない。曲だって、その時に出る新曲と元彼が好きだった局くらいしか覚えていなかったし過去の情報も勉強しようとも思わなかった。
「みのりちゃんがRe:valeと向き合うときが来たらその時にでもまた俺たちのことは話すよ。ね、百くん。」
「そうっすね、みのりちゃんが俺たちのこと、Re:valeのことをちゃんと好きになって興味持ってくれたら嬉しい。」
「……好きですよ、私が受け持ってる仕事ですから。」
口を尖らせて言えば本心がバレたのか万理さんはまたくすりと笑って私の頭をポンポンと撫でた。男性の、しかも付き合ってもいない大人の人にそんなことされたことなかったから、私は過剰反応をして百さんの方へとのけぞってしまう。
「おっと、」
「な、そ、れ、」
「もう万さん!みのりちゃんびっくりしてるでしょ!大丈夫?」
「あ、あはは…すみません、大丈夫です、」
「ごめんごめん、嘘をついた時の妹の顔にそっくりだったから、つい。」
「っ……万理さんって、いじわるなんですね。」
「そうかな?そんなことないよ。」
「…………。」
「疑ってる疑ってる。」
「え〜?でも今日はさ、みのりちゃんの愚痴でも何でも聞きたいと思ってたんだ。存分に話してよ。」
そう言いながら新しいお酒を渡されて、私はごくりと何も考えずに飲み干してしまう。
正直、この先に話したことは全く覚えていなかった。