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転校してきてから1ヶ月。
私は彩子ちゃんがあの時声をかけてきてくれたこともあり彩子ちゃんのグループに入れさせてもらって何となく学校生活を送っていた。

勿論りょーちんと話したりすることはある。だけど昔みたいに必要以上にくっついたり、後をついて歩いたりはしなくなった。何となくりょーちんもそれを察しているとは思う。だけどそれについてりょーちんが何か言ってくることはなかった。


「みのりちゃん!!」
「あんちゃん!!」
「きゃー!!本当にみのりちゃんだ!」
「あんちゃん大きくなったねえ、もう私と身長変わらないんじゃない??」
「えっへん!多分りょーちゃんを抜かすのもそう遠くない未来だよ!」
「あはは、それりょーちんに言ったら怒るでしょ」
「いいもーん、あ、どうぞどうぞ!お母さんも夜まで仕事で帰って来れないんだけど会いたがってたよ!」
「えーじゃあお母さん帰ってくるまでいちゃおうかな?」
「本当!?アンナは嬉しい!」


どこか懐かしい団地の一部屋、部屋の中は生活感で溢れていて、りょーちんもここで生きてるんだなぁと胸がいっぱいになった。


「でも本当にびっくりしたよ〜だってりょーちん、明日みのりが会いたいって言ってるけどとか突然言うんだよ!?そもそも同じ学校だったら先に言えっつーの!」
「えー言っててくれなかったの!?私もあんちゃんに会いたかったからもっと早くりょーちんに言えばよかった!」
「いつからこっちにいたの?」
「5月だよ、新潟から転校してきたの」
「ニイガタ!寒いところ!?」
「そうそう、冬とか雪こーんなつもるよ!」
「えーすごい!」
「あんちゃんにも見せてあげたかったなぁ、こっちは雪降るのかな?」
「うーんたまに?でもつもったりはしないかも!」
「沖縄はあったかかったもんねえ」
「ね〜」
「………ソーちゃんの、手を合わせるところとかはないの、かな」
「あーうちみんなソーちゃんは別の島で生きてるって私に気を遣って嘘ついてるからさぁ。でもさすがに私だってわかるぞ〜って感じなんだけどね!だってソーちゃんがこんなにうちに来ないことなんてないもん、ソーちゃん家族大好きだし。だけどまだお母さんもりょーちんも言ってこないから私は黙ってるの」
「………そっ、か」
「あ、写真あるよ!見る?」
「……うん、見たい」


ソーちゃんの笑ってる顔、バスケをしている姿……あの頃のままだ。高校1年の春、あれだけ泣いたのにまた涙がぽたぽたと落ちてきた。あんちゃんがいるのに、あんちゃんは泣いてないのに、年上の私がこんな風になっていて情けない。


「あ、見てほらみのりちゃんもいた!」


写真の中の4人はソーちゃんがみんなをギュッと抱きしめて私とあんちゃんは口をいっぱい開いて笑っていてりょーちんは恥ずかしそうに口を曲げて、でもどこか嬉しそうな顔をしている。大好きなみんなの姿だった。


「あんちゃん、この写真今度焼き増しできるかな?」
「うん!お母さんに言っとくね!」
「ありがとう、私本当に3人が初めての友達、みたいな家族以外の家族みたいな存在だったからね、本当に大好きなんだ。だからこうやってまた会えて本当に嬉しいの」
「アンナも嬉しいよ!あーもうみのりちゃん泣き止んで!ソーちゃんにも怒られるよ!」
「っ、うん、次ソーちゃんに会う時に怒られちゃうもんね、あんちゃん、ありがとう」
「今日うち焼きそば作るんだけどみのりちゃんも食べていくでしょ??一緒に作ろうよ!」
「うんっ」
「みのりちゃん料理出来る?」
「私1人でいること多かったから結構作れるよ!」
「じゃあみのりちゃんに作ってもらお〜!アンナはサポートに回ります!」
「お任せください!」


あんちゃんと楽しくキッチンに立って夜ご飯を作った。作ってる途中でお母さんが帰ってきて久しぶりの再会に私はりょーちんと同じように抱きついた。優しくて温かくて変わらないりょーちんのお母さんだった。

作った焼きそばと余り物を入れたコンソメスープと私が好きなパリパリチーズを並べた。するとタイミングよくりょーちんも部活から帰ってきたようでこちらを見るなり驚いていた。


「りょーちゃんいいところに!みのりちゃんがご飯作ってくれたんだよ!みんなで一緒に食べよ!」
「ん」
「お風呂は?」
「後でいい」
「じゃあみんな集合!!」

私は昔みたいにりょーちんの隣に座ってみんなで手を合わせる。いただきます、声を揃えてそう言ってご飯を食べる。ずっとやりたかった、本当はソーちゃんも一緒が良かったけど、りょーちんとあんちゃんと、お母さんと、またやりたかったことが出来てまた泣きそうになる。うるうるとしてるとあんちゃんにあーまあみのりちゃん泣きそうになってるー!!とつっこまれてしまって私はえへへ、と笑ってしまった。

「みのりちゃん料理上手だね〜」
「本当?美味しい?」
「美味しいよ」
「チーズのやつも美味しい!!これアンナも次作ってみる!!」
「うん、やってみて!」
「りょーちゃん、美味しいよね?」
「……りょーちん、美味しい?」

さっきから一言も喋らないりょーちんにみんな目線が集まる。少し気まずそうにしてるのが眉間から伝わる。


「……うまいよ」
「……うまいよ、だって!」
「くそアンナ」
「何よ!素直じゃないんだから!」
「えへへ、嬉しいなぁ」
「みのりちゃん、今度はお泊まりしてよ!」
「えっいいの?」
「いいよねお母さん!」
「親子さんに許可もらっておいで」
「うん!行く!」
「やったー!そしたらまた料理も教えてほしいなぁ、あと買い物にも一緒に行きたい!」
「行こう〜!あんちゃんに会えなかった分の誕生日プレゼント買わせてほしいよ」
「えー!」
「みのりちゃん、無理しなくていいからね」
「ううん、私ずっと転校ばっかりで友達もいなかったからね、お小遣いもお年玉もなーんにも使ってないの。だからまたこうやってみんなに会えて嬉しいから、私がしたいからするの」
「……ありがとう、アンナ、あんまり我儘言わないようにね」
「はぁい」


みんなで食べるご飯はいつもよりも美味しく感じた。女子たちは話も尽きず、食べ終わった後も談笑をしているとあっという間に21時を迎えてしまった私は慌てて帰る準備をする。

「リョータ、みのりちゃん送ってあげられる?」
「えっいいよ!うちここからだと30分くらい掛かっちゃうから!」
「だからでしょ、いいかりょーちゃん、みのりちゃんをしっかりお守りするんだぞ!」
「りょーちん、あの」
「行くぞ」
「えっ、と…あ、じゃあ、また来るね、お邪魔しましたっ」
「うん!またきてねえ!」
「気をつけてね」


私はりょーちんの背中を追うように家を出た。6月になって湿気が出てきたけどまだ夏の手前、少し涼しく感じた。


「りょーちん、ごめんね部活もして疲れてるのに」
「いいよ、あー……飯、うまかった、本当」
「……本当?えへへ、りょーちんに言われて嬉しいなぁ」
「………学校、慣れた?」
「ん〜多少は慣れたよ、彩子ちゃんも優しいし。……彩子ちゃん、本当いい子だよね」
「まあな、アヤちゃんは天使だから」


天使かぁ、あはは。から笑いをしながら俯く。りょーちん、好きな人を褒めてもらって嬉しそうだな。そこからりょーちんによる彩子ちゃん天使説をされた。頑張って顔に出さないようにしんどいを隠した。昔ソーちゃんに教えてもらった、大丈夫なフリ。いつの間にか私はそれが得意になってた気がする。

あっという間に家の近所まで来たのでここで平気だよ、と伝えるとりょーちんは家まで行くの一点張り。申し訳ないなぁ、と思いつつもマンションのエントランスまで送ってもらった。


「すげー家だな」
「お父さん、転勤ばかりで頑張ったみたいだから」
「もう転勤はねえんだっけ」
「うん、これで終わりみたい」
「じゃあよかったな」
「うん。りょーちん、ここまで送ってくれてありがとう」
「おー、じゃあまた学校でな」
「うんっ」
「………みのり!」
「……ん?」
「あー……いや、やっぱなんでもねえや、腹出して寝んなよ」
「寝ないよ、りょーちん気をつけてね」


りょーちんが背を向けて歩いて行ったのを確認して私も後ろを向いた。胸が苦しくなるのは変わらなかった。