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半年経った現在、新しいお家を借りるに審査がなかなか降りなくて結局爆豪くんにお世話になっていた。本当は直ぐにでも出てもうこの中途半端な環境に終止符を打たなきゃいけないのに、仕事も全然決まらず現在はバイトと貯金で生活を何とかこなしているのが現状。とはいえ爆豪くんに家賃も光熱費も出す必要はないと言われているので本当に身体一つ差し出して住まわせてもらっていた。
もちろんただセックスをするだけではない。そもそも爆豪くんは一般男性と比べて性欲が薄いのかその頻度は高くない。それに荒々しかったのは1回目だけで、それ以降は見た目とは裏腹にとても優しいセックスだった。なんとなく、優しく抱いてくる爆豪くんは苦手だった。いっそ「お前は都合のいい性欲処理の道具だ」と言われた方が割り切れるのに、いつも丁寧に私を扱う。それに少し苦しそうな表情をするのが見えて、私は何よりもそれが1番複雑な気持ちになって目を反らしてしまう。
経験が多くあるわけではない。短大時代に初めて付き合った彼氏として、別れてからは何もなかった。だから爆豪くんが2人目になるわけだけどこういう関係になってしまった以上、あまり経験が少ないことを悟られないように必死だった。きっと軽い女に見えた方が爆豪くんだってやりやすい。それに今はこれしか爆豪くんに返すものが無かった。
本当にあの時に声を掛けてくれたことに感謝している。だからこそこうして一緒に居させてもらってるからには出来る限りのことはしたいんだ。
「よし、今日はバイトないし布団カバーも洗おう」
最初はただただ居心地が悪くて家になるべくいないようにしていたここも、だんだんとここにいることが日常になってきていた。家事も私がさせていただくことになっていたので、洗濯機を回して掃除機を取り出す。もう大体何がどこにあるのかも把握できるようになってきた。
爆豪くんは几帳面で、基本的に自分で何でもこなしてしまう人だ。だから適当にやるもんならやってる意味が無いし料理もレシピ本と向き合って毎回普通以上になるように努力はしている。だけど決まって爆豪くんの反応は特になかった。
いってらっしゃい、おかえりなさい、いただきます、おやすみなさい………全て独り言。彼は何も言わない。半年前、私を引き入れてくれたときはそれなりに喋ってくれていたのに、身体を預けてからは必要最低限の会話しか出来なくなってしまった。
それが実は凄く寂しくて、堪らなかった。
夕方。いつものように夕食の買い出しに出てから準備に入った。今日は筑前煮と炊き込みご飯、揚げた小鯵の南蛮漬けと小松菜の煮浸しとお味噌汁にしよう。家事をさせてくださいと言い始めた時は塩っ気が強いとか味が濃いとか言われていたけど、最近ではかなり減ったように感じる。美味しいとは言われないけどきっと不味くはないのだと思う。
言葉が無いことに虚しさを感じないわけじゃない。だけどそこまで求めてしまったら私はもうここにはいられない気がした。
「ん……、美味しい」
味見も出来たところで私は干していた洗濯物を全て取り込み、ご飯の準備は万端となった私はお風呂洗に移った。時刻は18時、恐らくあと1時間もすれば彼は帰ってくるから急がないと。
そう高を括っていたらガチャ、と扉の鍵が開く音がした。
「嘘、はや……、」
作業を一瞬止め、タオルで軽く足と腕を拭いてバタバタと玄関に行くと爆豪くんが靴を脱いでいる途中のようだった。
「お、おかえりなさいっ、あの・・・すみません、お風呂今洗っていて、……先に夕食でもいいですか?」
「………どうでもいいわ」
「え、と」
「飯でいいっつってんだよ」
「っはい、直ぐに準備しますっ」
慌ててキッチンへと逆戻りすると軽く手を洗ってから既に作られていた食材をお皿に盛りつける。以前爆豪くんの分だけ出したら洗い物が二度手間になったら水道代かさむだろうがと言われたのでご飯は時間が合えば必ず一緒に食べるのがルールだった。2人分を並べていると爆豪くんは着替えを済ませラフな格好でダイニングテーブルに着いた。お先にどうぞ、と伝えると箸を持ち食べ始めた姿を確認して温かいお茶を作る。ポットに茶葉を入れ、お湯が沸騰したのでしっかり順を追って美味しいお茶の作り方に習いそれを汲む。
それを爆豪くんの席に置いて私もようやく椅子に座る。
「いただきます、」
それは私だけが言う。シンと静かな部屋の中、箸や食器が置かれる音だけがそこに流れた。爆豪くんのお家ではいつもこんな感じだったんだろうか、それとも私がこうさせてしまっただけなのだろうか。それは分からないけど、向かい合って一緒に無言でご飯を食べるこの時間が1番好きじゃなかった。
私は爆豪くんより食べる量が少ないのに、爆豪くんは食べるのが早い。いや、もしかしたら私が遅いだけかもしれないけど。それでも今日はお風呂掃除を残したままだから早く食べないと、と思っていたのにやっぱり爆豪くんの方が早く食べ終わってしまった。
「あ、ごめんなさい、食べ終わったらお風呂掃除やるので少し待っててくださいっ」
「……朝早えからもう風呂入って寝るわ」
「えっあ、じゃあ今から私が、」
「シャワーだけだからいらねえ」
「でも、」
「うぜえ」
「……ごめんなさい、」
食べ終わった食器をそのままに、爆豪くんは浴室へと行ってしまった。ああ、もうバカ。もっと要領よくやっておけばよかったのに。
私は深いため息をついて炊き込みご飯を口に掛け入れた。