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言いたいことがたくさんあった。
この親子丼は私の分ですか?夜ご飯を作らないでいいなら、これ以上何を尽くせばいいですか?私にできることはありますか?
あと、次のお休みでもう一度不動産に行って家を探してきます。仕事も決まったので恐らく審査が通ると思います。本当にこれまでありがとうございました。
言いたいことがたくさんあったのに、彼の靴は既になくて残されていたのはリビングにあった置きメモだけ。

「今日から1ヶ月関西、か……」

この半年間で1週間程度の出張はあったけど1ヶ月は初めてのことだ。
ちょうどよかった、かもしれない。私は仕事に慣れるまできっと家事も十分にできなかっただろうし、家だって出ていくのに準備も必要だった。もうこれ以上彼に迷惑を掛けてはいけない、だからちゃんとしようとそう決めた。
そしてその日の朝、まだ残る親子丼を私は食べて職場に行った。













爆豪くんが出張に出てから2週間、ようやく仕事にも自分のやることが分かってきて職場の人ともご飯に行ったりと楽しい時間を過ごしていた。そしてなにより……

「本当ですか!?」
「ええ、恐らく大丈夫かと思います。しかし結果は来週に報告とさせていただきますのでよろしいでしょうか?」
「はいっぜひよろしくお願いいたします!」

無事家が決まりそうだった。職場からほど近い家賃55000円の小さなアパート。オートロックも広いスペースもなくなるけど、やっと念願の自分の家だ。嬉しくてたまらなかった。
とはいえ前例があるのでぬか喜びは出来ないけど私は気分よく家に戻りテレビをつけるとニュースが流れていた。

『それでは次のニュースです。ヒーロー爆心地、今回も大活躍です!現在関西で起こっている大規模立てこもり事件ですが、爆心地の攻撃がきっかけとなり犯人グループらを制圧、そして犠牲者を一人として出すことなく終幕されました!いや〜さすがですね!』
『本当に彼はすごいです。当初長期化すると見られていた事件をものの2週間で型をつけてしまったんですから本当にさすがの一言ですね!』
『現場の佐藤アナと中継がつながっているようです!佐藤さん?』
『こちら佐藤です!こちらに爆心地が到着するとのことで先ほどから待機をしているのですが、あ、爆心地!こちらUスタです!今回の事件について一言!』
『あ?うっせーわ!テメエらに話すことなんざ何もねえ!』
『そんなこと言わず一言お願いします!』
『っせーな俺は疲れてんだよ!もうテメエら安心して過ごせや!』
『以上中継でした!ありがとうございました!』
『いや〜相変わらずのヒールっぷりですねえ。』
『でも最後の一言を聞いてお住まいが近かった人たちは安心しているのではないでしょうか?我が国のヒーローは強いです!爆心地がいれば大丈夫!ありがとう爆心地!それでは次のニュースです。』

すごいなあ。単純にそう思った。
それと同時に数週間前まで一緒に住んでいたことが嘘みたいに感じて、自分という存在がとてもちっぽけでとことん爆豪くんの傍にいていい存在じゃないなと思った。
私はテレビを無言で消してお風呂に入った。

「わたしは、爆豪くんのことが、すきじゃない」

最近は何度も自分に言い聞かせているように感じる。
そうでもしないと、私は爆豪くんのこと……、

「すきじゃない、すきじゃない」

すきじゃない。