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『審査通りました。今月からの利用でよろしかったでしょうか?』
「ありがとうございます!はい、明日にでも入りたいと思ってます!」
『承知いたしました、では本日か明日にでも鍵を取りに来てもらえますか?』
「はいっ本日は仕事なので明日伺わせていただきます、よろしくお願い致します!」
嬉しさいっぱいに電話を切ると周りに人がいないことを確認してからガッツポーズをする。
あとは爆豪くんになんて言おう、そればかりが頭に過った。そもそも彼が戻ってくるまで後1週間近くある。何も言わず家を出ていくのは非常識だと分かっていたけど、今爆豪くんを見たら気持ちがぶれてしまいそうで怖かった。
「辻川さん、今日歓迎会開こうと思ってるんだけど来れるかな?」
「えっは、はい!嬉しいです!」
「よかった。じゃあ終わったらみんなでここのお店行くからよろしくね」
「はい!」
自分のための歓迎会なんて…と感動しつつ残り4時間の業務に取り組んだ。
□
「辻川さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですぅ、」
「俺送っていこうか?」
「おいお前〜送り狼になる予定だろ〜!」
「な、違いますって!」
「えへへ、大丈夫ですよ〜ありがとうございます、失礼しますっ!」
二次会までしっかり飲み、程よく酔った私は帰宅のために1人で電車に乗った。
「辻川さんっ!」
「……あれ、佐藤さん…?」
「やっぱり心配だから送るよ、家どこ?」
「あ、えと…大丈夫ですよぉ、ありがとうございますっ」
佐藤さんは私と同じ部署で働く割と年齢の近い男性の方だった。いつも優しくて、分からないことを聞いてもちゃんと対応してくれるとても頼りになる人。だけど私が今住んでいるのは爆豪くんが住んでいるところだし送ってもらうわけにはいかない。
「でも顔も赤いしふらついてるよ?」
「そんなことないですっ、あの、ほんとうに」
「じゃあせめて最寄り駅まで送らせてよ。本当にやましいことなんて考えてないんだ。」
「……駅まで、なら。ありがとうございますっ」
電車の中でも佐藤さんは楽しい話をしてくれた。
私も無理なく自然体にその会話を楽しめて、ああ爆豪くんともこういう会話がしたかったな、とふと思いこんでしまう。
「あ、次の駅ですっ」
「へえ、霞が関なんていいところ住んでるね。」
「明日には引越なんです、いいところだったんですけど、ね」
「……もしかして彼氏と同棲とか?」
「へ?」
「すっごい悲しい顔してる、辻川さん。そりゃこれだけ可愛ければ彼氏くらいいるよね」
「…ち、ちがいますよ!」
電車が止まり、その言葉に反論しつつも駅を降りるとふらついた私の肩を掴んで大丈夫?と声を掛けてくれる。
「す、みませんっ」
「いいよ。ねえ、やっぱり家まで送るよ」
「それは、」
「……おい」
久しぶりに聞いたその声に私はビクッと身体が震える。振り返るとキャリーケースを持ち帽子を深く被った爆豪くんの姿があった。予定よりも1週間も早い、思わぬ再会と今の現状にバクバクと心臓が鳴っていた。
「あ、え、」
「……辻川さん、知り合い?あ、もしかして彼氏?」
「ち、違います!」
「………」
「人違いじゃありませんか?」
「あ、えと、付き合ってる人ではないけど、知り合いではあって、」
「チッ…来い」
「うわっ、あ、ちょっとまって、あ、佐藤さん!すみません、ありがとうございました!」
引かれる腕が、熱い。先ほど同じように佐藤さんに掴まれていたはずなのに、全然違う。
「ばくご、くん」
「………」
「……ばくごう、くん」
「………」
「…うで、いたい、」
いたいよ、爆豪くん。