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「お疲れ様です〜!」
「お疲れ〜いい週末をね〜」
仕事を退勤して華金を迎えた私は華金なのに飲みに行く予定も特になく真っ直ぐ家に帰ろうとしていた。電車を待っていると人混みの中どこか見たことのあるシルエットの人物がいた。帰宅ラッシュの人が増える時間、なぜあの人がこんなところにいるんだろう。
大爆殺神ダイナマイト、だ。いや今はヒーローの姿をしていないから爆豪さんかもしれない。それにしても色付きのサングラスと口元にマスクをしていても体格と放つオーラからその変装はバレバレというか…周囲も騒ついてるように感じる。それでもきっと誰も声を掛けないのは大爆殺神ダイナマイトや所属事務所が何度もオフに声掛けてくんなと伝えてるからなんだろう。私は拝むようにその姿を少し遠いところから見ていると一瞬目が合ったような気がした。
「……(自意識過剰、)」
分かるはずがない。私はただ爆豪さんに迷惑を掛けたファンの1人に違いないんだから。忘れない、と言われても毎日のようにニュースで彼の姿を見る多忙な彼の記憶に自分が残ってるとは思えなかった。
私はもう帰ろうと振り返り改札に向かう為歩き出す。Suicaどこだっけな、鞄の中をゴソゴソと探していると突然斜め掛けにしていたバックの方をグイッと引っ張られた。何事!?と思い振り返ると先ほどまで遠くで凄いオーラだしてた大爆殺神ダイナマイトがいた。
「えっ!?」
「てめぇ目が合っといて会釈もなしとは良い度胸してんな」
「あ、えっと…大爆殺神ダイナマイト、目合いました……?」
「合っただろうが!てめぇの目腐っとんのか!」
「ひいいすみませんっ!こ、これだけ人いたので別の方かと思いましてっ…!」
「チッ…おい、仕事終わりだろ?この後時間あんなら来い」
「……は、い……?」
「来いっつってんだよ!迷惑かけたかり返せや!」
やばい、給料前でかつかつなのに私の財布の中身が空になるかもしれない覚悟をこの一瞬でして、これ以上ここで大爆殺神ダイナマイトと話していると恐らくこの人にまた迷惑を掛けてしまうと思い私は大人しく彼の後ろを着いて歩いた。
「あ、あの……」
「あ?」
「ここ……いくらくらいなんですか……メニュー表に値段書いてないの怖いんですけど…わたし、今お財布に5000円しか入ってなくて……」
「ハッ、それじゃせいぜい肉1人前だな」
「……ガストとかじゃ、だめですか?」
「俺がガストなんか行ってみろ、明日のくだらねえ報道はそれ一色になるぞ」
「うっ……確かに……、じゃあわたしの分はいりませんので大爆殺神ダイナマイトの分だけで……、」
「遅えな、もう2人前で頼んである」
大爆殺神ダイナマイトはそれはもうニヒルな笑い方で、それだけ見るとヴィランさながら。ああ、さようならわたしの貯金……。続々と届くお肉たちを見ながら、そもそもなんでわたしはここに連れてこられたんだろうと目の前に座る大爆殺神ダイナマイトのことを見る。前回会ったときは緊張と息苦しさで数回しかまともに彼の顔を見れなかったけど今回は少しだけ、少しだけ冷静に彼を見れる。
「……きれい、」
「は?」
「あっ…いや!すみません!うっかり口から出ちゃって、あの」
「肉に綺麗も汚ねえもあんのかよ、意味わかんねえな」
「…………(綺麗なのはあなたの顔です〜〜っ!!)」
「おら、食え」
「あ、わたしより大爆殺神ダイナマ」
「今ヒーロースーツ着てねえからやめろそれ」
「……ばくごーさん」
「ハッ、覚えてんじゃねえか」
忘れるわけないでしょ。忘れるって言ったけど、そんなの10年経っても無理な話だ。ごめんなさい、と謝ればフンッとまた無心でお肉を焼き続け均等より少し爆豪さんの方が多く配分してくれ、いただきますと呟きお肉を口に入れる。
「んんっ!?ん〜〜っお、っいし〜!」
「ったりめえだろ、てめぇがいつも食べるような肉とはちげぇんだよ」
「おにく、すごい!美味しい!ん〜〜っ!!」
「ハッ、アホ面」
頬杖ついてバカにする爆豪さんがまるで美術館に飾られる美術品のように綺麗で思わず食べていたお肉を喉につまらせ咽せてしまった。汚ねえ、っていうけどあなたのせいだからな!!