ツキからの文を受け取ってからしばらく。
あれ以降、一切音沙汰はないが、生きているということが分かっただけでも私個人としては十分だった。

今頃、どこで何をしているのやら。
何であれ、里を想っての行動だろう。

便りのひとつでも欲しいところではあるが、それではまるで私だけが求めている様だから何も言わない。
……まぁ、言えない、というのが正しいのだが。

そうやってツキが戻るのを待ちつつ、仕事に弟子に追われる日々を送っていたある日の朝、またあの子が現れた。
今度は執務室ではなく自室で、前回同様に足に文を巻き付けたその子の顎下を撫でてやりながらその文を取ると、満足そうにしてまた飛び立つ。

そしてその文には ──
『今夜』とだけ。

ああ、ようやく会える。
どくん、と高鳴る胸を深呼吸で鎮めて、朝支度を始めた。

帰って来たら何を言ってやろう。
ぶん殴ることは決めている。
そんな風に、夜へと思いを馳せた。


「おはようございます、綱手様」
「ああ、おはよう」


支度を終えて執務が始まると、シズネに怪訝な顔をされた。
また顔に出ていたのだろうか、やって来たサクラにも似た様な顔をされる。


「何かあったんですか…?」
「それが分からないのよ…。少し前にも似た様なことがあったんだけど…。綱手様、何かあったんですか?見た事ないほどご機嫌で…逆に怖いです」
「うるさいねぇ…。明日になれば分かるさ」
「明日…?」


明日が何だ、と顔を見合せたシズネとサクラをよそに筆を走らせていると、焦った様子のシカマルがやって来た。


「たった今、登録のない忍鳥が確認されたと報告が…!」
「ああ、気にするな」
「いや、気にするなって…そうもいかねっすよ」
「本当に気にしなくていい」


きょとん、と三人があほ面を晒した。
筆を置き、立ち上がって合図を送ると遥か上空に居たであろう翠が腕に止まって、じっとこちらを見上げる。


「可愛い奴でね。主人と同じで私には従う」
「その、主人ってのは誰なんです?」
「明日になれば分かると言ったろ、シズネ」
「ですが…」
「もう行っていい。休んでな」


じっとこちらを見上げる翠を、そう言って空に放つ。
何か言いたそうなシカマルを戻れと追い払って再び筆を取ると、やっぱりご機嫌過ぎて怖い、という可愛い弟子たちの言葉は聞こえていないことにした。

そうやってひたすらに筆を走らせ、任務を振り分け、仕事をしている内にあっという間に日が沈む。
今日はもう良い、とシズネもサクラも帰らせて、一人になってからしばらくした頃、背後に気配を感じて、ぶん殴ってやろうと振りかぶりながら振り返る。

けれどもそこには誰もおらず。


「帰って早々、死ぬのは勘弁なんだけど?」


懐かしい、声だった。
時が止まったかの様な静寂が訪れ、言いたかったことが山ほどあるのに言葉にならずに消えていく。
せめて睨み付けてやろうと振り返る前に、背後のソイツはそのまま私を抱き締める。

昔からずっとそうだった。
伝説の三忍と謳われた私たちに並ぶか、それ以上とも言える天才で、男であれば必ず振り返るような女で、相手など腐るほどいるくせに、私にばかり構う大バカ。

何も変わっていない。
声も、匂いも、その体温さえも。




( ただいま、綱手 )
( 何がただいまだ、ばーか )
( 嬉しくないの? )
( ぶん殴る )



今夜

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