帰って来た。
ツキが生きていた。
その存在を身体全てで感じるだけで、山ほど言ってやるつもりだった文句は頭の中から消え去ってしまう。
もう少し、こうしていたい本心を隠すように私を抱きしめる手の甲をつねる。
「いたたたた」
「いつまでこうしてるつもりだ」
ようやく解放されて振り返る。
つねられて赤くなった手の甲を摩る姿を改めて見上げると、あの頃と何にも変わらずに優しい笑みを浮かべていた。
それが何となくムカついて、腹が立って、やっぱり一発殴ってやろうと思ったタイミングで彼女の左手が頬に触れ、またその気が萎える。
「ようやく、お前が死んだことを受け入れたんだが?」
「ん…、それは、うん…ごめんなさい」
眉を下げて困った様に笑う顔も変わらない。
多分、こうしているだけで心が乱れるだけ乱される私自身も、変わっていないのだろう。
柔らかな指先が右頬を撫で、好きにしているのが少し悔しくて、ため息をついてからその胸元に額を押し付ける。
「綱手…?」
「うるさい、ちょっと黙ってろ」
「ハイ…」
心音を感じる。
ツキがここに居る。
夢でもなんでもない。
両腕を背に回して、今度はこちらから抱き締めて、何年も抱え続けた想いが溢れそうになる。
けれども、それを伝えられるほど素直ではなく。
だから、少しだけ本音を渡すことにした。
「……もう、勝手に消えるな」
「分かってる…」
( 明日は雨かなぁ… )
( なんだ、殴られたいならいつでも )
( 嘘よ、もう。可愛いんだから… )