満天、星空、アイスクリーム
「王様、今日七夕なんだって。」
目をぱちくりとさせ少し間を置いて、「七夕、とな」とギルガメッシュはぽつりと返答した。ウルクには七夕という概念があったっけ。どうだったっけ。ちょっと資料読み返したくなってきた。名前はそう考えていた。
七夕、七夕……とギルガメッシュは顎に手を当ててうーんと考えている。
「何か思い当たるような思い出が?」
「いや、別にない。」
「ないんかい。」
「ないのでな、作るかとも思ったが……」
ギルガメッシュは言い淀んで窓の外を見遣る。窓には雨粒が幾多にもついていて、これでは織姫と彦星が落ち合うこともなさそうだとも、思い出作りに出掛けるもこのような雨では出来ることが限られるとも思った。
確かに、雨だと何もする気が起きない。名前は、雨の匂いは好きだがそれとこれとでは別問題である。
ギルガメッシュは髪を無造作にかきあげてだらりとうなだれた。
「雨の日でも出来ることかぁ……」
「いや、貴様はそれどころではなかろう。」
「え?」
ギルガメッシュはテーブル越しに座った名前に、ぐっと手を伸ばす。
しばらく目元を撫でたり、頬を擽ったりしていたが、突然飽きたように、また、呆れたかのように名前に言った。
「顔色が悪い。」
「元々ですよ。あまり外に出なかったことは王様も知ってるでしょ。」
「春はここまで悪くなかったぞ。」
そう言うと、ギルガメッシュは名前の腕を強く引っ張る。
まずい、力が入らない、と名前はギルガメッシュの力に抵抗出来ず、ソファに寄りかかった彼の腕の中にすっぽりとおさまるばかりだ。
ギルガメッシュに腕を引っ張られて抵抗が出来なくなるまでは気が付かなかった。名前は、微々たるものではあるが体調を崩していた。
「ほら見ろ、足下も覚束ぬままではないか。」
「あれ〜…へへ、何でだろうな…」
「今日が休日でよかったな、名前よ。」
ギルガメッシュがさきほど名前の顔をまじまじと観察していたのは、彼なりの触診だったらしい。
それにしたって変化に機敏すぎる。今までこのようなことはなかった。名前の体調変化も、ギルガメッシュの態度の変化も。あらゆることが、今は不思議だ。
「連日、働き詰めだったからな。この間など、あろうことか貴様仕事に遅刻しおったではないか。」
「あれは俺のミスですよ!?」
「にしてもだ。己の身体も顧みずに無理な魔術の使い方をするなとあれほど教えこんだではないか。」
ぐ、と名前は押し黙る。
仕事に遅刻したのは事実で、それは変わらない。だが、遅刻してから職場につくまで限界まで肉体強化をして職場まで全速力で走った。あれは流石に肉体に負荷がかかったのも自分でよくわかった。
ギルガメッシュはそこを指摘しているのだ。神秘の秘匿とか、そういう類の心配ではない。
「己の力を過信するなよ、雑種」
鋭い声音。
しかし、すっぽりとおさまった名前の身体をいたわる手はどうも穏やかで、優しい。そんなちぐはぐさが、名前の心臓をきゅっと縮こませる。
ギルガメッシュのことだから、雨でもなんでも体験したことのない思い出作りもしたかっただろう。たとえ口ではくだらないと言っていても、この王様はちぐはくだ。
「───────あ。」
「何だ。」
「王様、冷蔵庫にアイスありますよ。アイスです。何種類かこの間買いました。」
「…………」
「王様」
「………………」
「─────ギルガメッシュ。ギル、アイス食べよう。」
しばらくして、ギルガメッシュは名前を腕から解放する。てっきり名前にアイスを持ってこいというかと思ったが、別にそんなことはなく、ゆるりと立ち上がって冷蔵庫に向かい、バニラアイスとチョコレートアイスを手に取っていた。
「ありがとう。」
「ふん、やっと素直になりおったか。」
「うん、ギルガメッシュにはかなわないや。」
雨粒が窓を濡らす。
天気とは裏腹に、アイスに着いたところどころの形さまざまな霜が蛍光灯に反射してキラキラとして、満天の星空のようだった。