保健室の子に会いに行く

職員室で手続きを済ませた後、私は教室へと向かった。
授業は何とか追いかけることが出来て、難しくは無かった。

やっと午前の授業が終わり、お昼休みになる。
*「…そういえば」

あの保健室の子…気になるな…

なんだか、授業にも行かないみたいだし…白夢さんの双子の妹?だっけ?
じゃあ、白夢さんに聞いた方が早いかな?

*「白夢さん白夢さん」
「はい?」
* 「白夢さんって、双子の妹が居るんだっけ?桔梗さんから聞いたんだけど…」



馴れ馴れしすぎるかな…初対面で…



「…妹…?
あの…私に兄妹はいませんよ?」

*「…え?」



予想外すぎる答えが帰ってきた。
居ない?居ない?
え、ええ?

*「え、でも、でも、桔梗さんが、
保健室に双子の妹が…
灰獄千陽!灰獄千陽だよ!
それに、お兄さんもいるって…」

「…?私は一人っ子ですよ。
灰獄…さん?という方も、存じ上げません。
お兄さん?も心当たりもないですし…
桔梗さんが、勘違いされてるのではないでしょうか。
世界には、よく似た人がいるとも聞きますしね」
*「…そ、そっかぁ…ごめんね?」
「いえいえ!大丈夫ですよ!」

会話を切り上げて、白夢さんと別れた。
なんだか、怖くなった。

いや、本当に桔梗さんの勘違いなら、心陽さんが正しいんだけど…。

「とりあえず、もう一度会いに行こうかな?」

私は、保健室へと足を進めた。



コンコン、と保健室のドアをノックする。
返事はなかった。
ゆっくりを開けて、当たりを見渡す。
誰もいない?
いや、ベッドに灰獄さんはいるのか。

*「保健室の先生も居ないんだなぁ…」

そのまま保健室の中へと入っていく。

ベッドの方を見ると、3つならんだ真ん中のベッドに、
小さな人影を見つける。
寄って見てみると、さっき話した灰獄さんが、
すやすやと寝息を立てていた。

本やお菓子をその場に散らかして。
寝顔はとても柔らかくて。
まるで子供みたいだった。

*「なんだか…妹って言われても納得が行く…」

何となく眺めてしまったその寝顔。
瞼がゆっくりと開いていった。

「んん…ぅ?」

寝ぼけた目のまま、体を起こす灰獄さん。
辺りを見渡し、私を見つける。
ぼうっとすること数秒、当然我に返ったらしい。…

「…っ!!誰だお前!!
なに人が寝てるそばでニヤニヤしてんだこの変…うぎゃ!?」

ドタドタと後ろに下がり、暴言を吐いたかと思えば…
ベッドから手がずり落ちて、そのまま後ろ向きに倒れてしまう。
ごチン!と、痛い音がした。

*「だ、大丈夫…!?」
「ー〜ーっっ!!…ぅうぅ…」

倒れたまま、頭を教えて悶える灰獄さん。
すこし涙ぐんでる。
…驚かせた私の責任…だよね…

*「ごめんなさい灰獄さん。驚かせちゃって。
立てる?手を掴んで」
「……ぅ…ん」

素直に手を握ってくれた。
そのままゆっくりと体を起こして、ベッドのふちに座らせる。

*「動かないでね。今、冷やすもの持ってくるから」
「…」

保健室の冷蔵庫から、勝手に氷を出す。
袋に入れて、それをハンカチでくるんで…
簡易的なものだけど、大丈夫かな…。

灰獄の所へ戻ると、大人しく座っていてくれたみたいで。

*「はい、灰獄さん。これで打った箇所を冷やして。あ、私が押さえようか?」
「…いい。自分で出来る」

灰獄さんは簡易的氷枕を受け取ると、
打ったであろう箇所を冷やし始めた。

「…」
*「本当にごめんね?」
「…いい。別に。そんなに謝り倒されても困る」

すこし、灰獄さんのことを聞いてみようかな…。

*「ねえ灰獄さん。
灰獄さんは…その、なんで保健室にずっといるの?
…聞かれたくない事だったら、ごめん。答えなくてもいいよ」
「…。
隠してるわけじゃないから。

…ここしか、居場所がない」
*「居場所?」
「クラスに行っても、居場所がないから。
僕はここにいる」
*「…何か、嫌がらせ、されてるの…?」
「…」

きゅっ…と、口を結んだ灰獄さん。
…図々しかったかもしれない。

*「ごめん!嫌だったよね…」
「き、気を使うな気持ち悪い…。
別にいい。…事実だし」
*「…」
「むしろ、そうやって変な態度とられる方が嫌だ。
さっきみたいに普通にして。
そうしないんだったら保健室から出てって」
*「ご、ごめん!普通にする!普通にするよ!」
「ん」

この子なりに、気を使ってるのかな?
確かに、よそよそしくなりすぎるのも良くないかも…。
普通に接しよう。

でも…
この子に、
私ができること…
何か無いのかな…?

*「ね、ねえ!また、明日とか…放課後とか、ここに来てもいい?」
「っ!…な、なんで?」
*「せめて、話し相手にはなりたいなって。灰獄さんは、口調は乱暴だけど、きっと優しい子なんだよね」
「な、なんで!別に!僕は優しくなんか…!」
*「さっきも、許してくれたし…。きっと、それを分かってくれたら、灰獄さんの味方はちゃんと増えると思うんだ」
「…」

どうしても、この少女を1人にはしたくなかった。
なんだろう。…母性?なのかな?
いや違うか。
でも、これも何かの縁なのかもしれないね。

*「だから、今日から私は、灰獄さんの味方第1号だよ!」
「ー……」

*「…あ、そうだ。
喉渇かない?お茶入れようか?」
「…。
…別に、僕が、入れるけど…」
*「私、紅茶入れるの得意だから、任せて!」
「…なら、任せる。
…冷蔵庫の…、近くに、
ティーパックと…、ポット、あるから…」
*「ありがとう!」



お茶をいれて、少し蒸らした方が美味しくなるんだよね。
えっと、時間は…

*「…ん?」

ふと、目に入った資料があった。

保健室の本棚の中に、紛れ込んでいたファイル。
背表紙にタイトルは書いていない。それほど厚みもなかった。
気になって取りだしてみる。

*「…えっと…中身は…」

*「…いじめによる、女子生徒…
自殺、事件の、まとめ…?」


ー某日。

校内のクラスで起こった、女子生徒への集団によるいじめ。
内容はプライバシー保護のため、省く。

始まりは、クラスのリーダー的グループによる「遊び」だったらしい。
そのやり口が、他の生徒にも伝わったと推測される。

怪我などはなかったが、
女子生徒は精神的に大きな傷を負った。

保健室としては、彼女のケアをしつつ、
保健医介入の元、
御家族や担任に相談していくという形をとっていた。

女子生徒は、保健室をよく利用していたので、信用は得られたらしい。

しかし、
担任、家族…それも、同学年の姉に相談をしたが、
あまり助力出来なかったという。

保健室だけでサポートするのは、
限界が来ていた。

結果、女子生徒は
自宅の自室で

自殺という結末になった。

家族にも、強い影響があり、
特に相談を受けていた同学年の姉は、心理的ダメージが大きかったという。

これからの課題は、
このことに関する学級の方針を決めることと、
姉のメンタルケアも必要だろう。

まとめ終わりー


…これって。
この学校で起こったこと…だよね?
とてもこんなことが起こるなんて思わなかった…。

それに、この女の子…
お姉さんや教師にも、助けられなかったってこと…?


*「…その、女子生徒の、名前…は……」



いじめを受け、
誰にも救われず、
挙句の果てに自殺をした、
女子生徒。


*「っ!!」

ゾクリと背中を掛ける冷気。
振り返ると、

いつの間にか、背後にいた彼女。

*「はい…ごく…さん。…こ、れ…」

彼女は答えない。
虚ろな目でこちらを見ている。


*「うそ…だよね…?
これ…だって、
…い、今…めの、前に…っ」


答えて欲しい。嘘だと答えて欲しい。

あなたじゃないと、言って欲しい。

灰獄さん、灰獄さん、灰獄さん…





「隱ー繧ょ勧縺代※縺上l縺ェ縺九▲縺溯ェー繧りヲ九※縺上l縺ェ縺九▲縺溷ソ�區繧ょ�逕溘b蜉ゥ縺代※縺上l縺ェ縺九▲縺溘#繧√s縺ェ縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>蜒輔′謔ェ縺九▲縺溘s縺ァ縺呵ェー繧よが縺上↑縺�s縺ァ縺�」



*「…ひ……っ」




「縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>閠舌∴繧峨l縺ェ縺上※縺斐a繧薙↑縺輔>螳カ譌上r蟾サ縺崎セシ繧薙〒縺斐a繧薙↑縺輔>螳カ譌上r蝨ー迯�↓蠑輔″霎シ繧薙〒縺斐a繧薙↑縺輔>縺ァ繧ょヵ縺ッ蟇ゅ@縺九▲縺滓が縺上↑縺�h荳也阜縺梧が縺�ュヲ譬。縺梧が縺�≠縺�▽繧峨′謔ェ縺�ヵ莉・螟悶′謔ェ縺�」




もはや言葉の形を成していない。
ただのノイズだ。
聞けば聞くほど、嫌悪感が溢れてくる。
動けないでいる私に、灰獄さんは続けた。



今度は、彼女の言葉で。




「…味方に、なって、くれるんだよね」

*「…ぇ…ぁ…」

「「仲間」に、なって、くれるんだよね」

*「灰獄さん…っ灰獄…さん…?」

「「仲間」で縺�≠縺�僕も、
僕の、味峨′謔ェ縺�ヵ莉・螟悶′謔方の、仲縺�≠縺�▽繧峨′謔ェ縺�ヵ莉・螟悶′謔間だ縺�≠縺�▽繧峨′謔ェ縺�ヵ莉・螟悶′謔」

*「…ぅ…ぁ…っっぅぅぁぁあっ…!!」

目の前の少女に、おぞましいものを感じ、
その場から逃げ出す。

這うように彼女から離れ、
保健室の戸に手をかける。

ガタガタと音を立てるだけで、
扉は1ミリも動かない。

*「開いて開いて開いて開いて開いてよッッ!!」

どれだけ叫んでも、
戸は答えることは無かった。


するりと、首に冷たいものがまとわりついた。
氷のようにひんやりしていて
でも、意志を持って動いてる。

この形は、人の手だ。

その持ち主は、この場に、一人しかいないだろう。

*「や…め…やめ、て……っ」





「仲間になったら、ちゃんと、会いに来てね」

「待ってるから」


「だから、早く、




「地獄」(ここ)に来て」





意識が沈んでいく中、私は後悔した。

なぜ、良くも知らずに、味方になるなんて、言ってしまったんだろう。


こんなの、少女の皮を被った、

化け物だ。

この地獄に住み着く…

悪魔。






「ダメじゃんか。素性もわかんない人間に、いきなり味方になるとか言っちゃ。

あれなのかな、
自分よりも可哀想な子を見るとー、

人って、親密になりたがるのかな?」


「まあいいか、仲間が一人増えたんだし、

これであの子も、
寂しくないでしょ」

-4-

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