双子について




「今は2人だけの家族だけれど」
「きっとこの先、またあの頃のように笑い合える」
「なら今は、頑張らなくちゃいけない」
「立派に成長して、いつか」




私たちは、裕福な夫婦の間に生まれた双子。
父親は大きな会社を仕切る社長。母親はその秘書。
でも、それでもあの人たちは、威張ることもせず、怠けることもせず、「立派な人」であり続けた。

産まれた双子の私達にも、たくさんたくさん、愛をくれた。
双子だからと一緒にする訳でもなく、格差を与えることも無い。


私は、そんなお父さんとお母さんが、大好きだった。
そして、いつもそばにいてくれる称も、同じくらい大好き。
かけがえのない人。大切な家族。
突然特別な能力が使えたり、いきなり別の世界に行ったり、魔法少女に選ばれたり…

確かに憧れることも…ある。
けれど、

私は、今の生活が大好きで、愛しいから。
特別なことなんて起きなくても、幸せだった。


「幸せだった。

なのに、

なんで」


中学生の頃だった。
たしか、2人とも部活で遅くなって、
晩御飯の時間はとっくにすぎていた。
2人で家に帰って、「ただいま」を言う。

普通の生活に組み込まれた、幸せな人時は

あっけなく崩れるものだと、思い知らされた。


「…っ…なん、だよ…これ…」
「…お、かぁ…さ…?」


廊下で、赤い池の上にぐったりと横たわるお母さん。
リビングで、
何回も何回も何回も何回も何回も
「誰か」に、刃物で串刺しにされるお父さん。


「…っ…ぁ…」
「…っ」

声も出ない。頭が追いつかない。
血の匂いが体の中に入ってきて、全身にこびりつくように纒わり付く。
いつの間にか広がっていた、母親の血溜まりは、私の足へと届き、真っ白な靴下を赤く染めて行った。


「…あれ」


「その人」は、やっとこちらに気がついた。
最後の一撃と言わんばかりに、勢いよくお父さんに刃物を突き刺したあと、
こちらに向き直る。


「…812は、この2人だけと言われてたのですが…?
新しい御相手ですか?
はじめまして、812と言います。
812は番号で…識別名は「クロユリ」です、ふふっ」
「…っひ…」
「っ…」


この場面にはとても似合わない、可憐な笑顔をして、丁寧にお辞儀をする。
青紫の髪は返り血で染まり、
光を一切通さないような濁った青い目。
背丈は私よりも小さい…「少年」のようだった。

でもそれが、余計に不気味さを引き立てた。


動けず、固まる私を守るように、
称は、前に出て、手を広げる。

私は、私は



「…弥音…に、近、づくな…っ」

震えた声を発し、称が睨むと
少年は、花が開いたように、頬をピンクに染めて、目を潤ませた。

「……。わあ、素敵ですねぇ。その目。
その人のことを守りたいってことですよね?
それは恋なのですか?
812は恋をしてしまいそうです」

少年は一歩一歩近づいて、称の目をしたから覗きこむ。
焦点のあっていない青い瞳は、称の緑の瞳を塗りつぶすように、映りこんだ。

「…」

「いいですよ、恋は。
恋をすると、何も考えられなくなります。
心が掻き乱されるように、ぐちゃぐちゃになるんです。
そして、相手も同じようにしてしまいたくなる…。

だから、恋をした相手を」

そっと、少年の手が、称の額に触れた。

「殺したくなっちゃうんですよ」

その小さい指は、称の輪郭をなぞる様に降りていく。
頬、顎、首、鎖骨、
そして、心臓がある…。


「812が恋をしたあなた。
あなたも恋をしましょう。

ふふっ…恋は人を変えますよ?」


ゆっくりと、少年が離れる。
ワルツを踊るように、軽やかなステップでリビングを回る。

お父さんの死体に、目もくれず。
美しい少年の舞と、血まみれの床のアンバランスな光景は、嫌でも目に焼き付いた。


「本当は、あなたも恋(ころ)したいのですが…
予定以外のことをしてしまうと、怒られてしまうのです。
なので、我慢します!
さようなら、812の恋をした人!
機会があれば、恋(ころ)しますね!」

「っぁ…まっ!」

一方的に捲し立てたと思えば、その少年は、既に割れている窓から飛び出して行った。
称が追いかけ、外を除くも、もう既に少年はいなくなっていたらしい。

「…っ…」

称は、私に向き直った。
近寄って、優しく頭を撫でる。

「…弥、音」

称の声を聞いた時、

安心したのか、
不安が溢れたのか、
恐怖で染ったのか、
分からない。

ただ、



真っ暗になった。



ーーーーー


「俺達は、お互いだけの家族になってしまった」
「奪われてしまった」
「それでも生きていかなきゃ行けない」
「なら俺は、受け入れよう」
「弥音を守るために」




「私(わたくし)という仮面の下は、
大切な家族だけにお見せしましょう」



ーー


「弥音さんは大丈夫です。緊張が解けたと同時に、ショックと恐怖が押し寄せたんでしょう。
今は落ち着いて眠っています」
「…よかった」





あの後、弥音は我を忘れたかのように泣きわめいた。

ただ、ひたすらに、声をかけ続けて、弥音を抱きしめて、背中をさすった。
何十分、何時間かは分からない。

弥音を安心させるために宥めていると、
ドアが勝手に開く音がした。

「失礼します。勝手に上がってしまって申し訳ありません」

現れたのは、スーツの女性。
この惨状を見ても、顔色ひとつ変えず、凛々しい表情をしている。
その腕には腕章があり、書かれていた文字は…





「君は大丈夫?」
「あ…はい、俺は大丈夫です。どこも怪我していません」

腕章をつけた人達に連れられて、どこかの大きなビルに連れていかれた。
中はとても綺麗なオフィスのようで、
そのビル1つがその人の会社らしい。

医務室に案内され、そこの専属だという医師と話し合う。

「…それは良かった。でも、僕が聞いているのはね、違うことなんだ。

君は怖くなかったの?」
「…え?」

怖くなかった。

といえば嘘になるけれど。
でも、あの時…は、

「…怖…かったと思います。でも…
弥音を守らないとって、思ったんです。
俺が怖がって、動けなかったら、弥音を守れないから…」

これは本心だ。
お父さんも、お母さんも殺されてしまって、
今弥音を守れるのは、自分だけだと思ったから。

「…そっか。君は強いね」

医師はそう笑って、デスクから1枚の紙を取り出す。
俺に手渡しすると、にこりと微笑んだ。
読め、ということなのだろうか。

「…被害者…支援?」
「うん。僕達が追っている組織があるんだけど、組織の被害にあった人達…主に残された家族だね。
その人たちに、局から支援をさせてもらうって言う取り組みなんだ」
「…確かに、今の俺たちじゃ…何も出来ないし…」
「ねえ、君たちに、今頼れる親戚の人はいる?」
「…」

記憶を巡る。
父方の祖父母は既に無くなってしまったらしい。
母方の祖父母は疎遠状態で、今どこで何しているかも分からない。
…正直、そこに行くのは気が引ける。
かと言え、他にあてがあるかと言われても、思い浮かばない。

「…ちょっと、分からない…です」
「そっか。
高校生だったら、学生だけの暮らしが出来ない…訳じゃないけれど…中学生は難しいと思うし。
どっちみち、保護者役は必要だからね…」

その時、この医務室に備え付けられた内線電話が鳴り響く。
ごめんね、と一言いい、医師は電話へと向かった。

俺は弥音が寝ているベッドの方向を見つめる。
今はカーテンで覆われており、弥音の顔を見ることは出来ない。
「…弥音」

…もし、あの時、俺が、もっと早く…

「お待たせ」
医師の声で我に返り、慌てて向き直る。
彼は、安心したような、いい報告を持ってきた、と言わんばかりの嬉しそうな顔だった。

「ねえ、君たち…

将来、ここに入る気は無い?」
「…は、え?」




「局長がさ、さっき電話くれて…。
「ここ」が親代わりにもなるし、住む場所も提供する。高校までの教育費も負担する。
その変わり、高校を卒業したら、ここで働くことが条件…だそうだよ。どう?」
「…それは」

俺たちはどっちも中学生。2人だけの力じゃ生きられない。
その提案は、とても魅力的だし、弥音のことを考えたら…

「…いいと、思うんですけど…でも、
弥音にも、聞いてみたいです。
…将来のことに、関わります、から」
「うん。もちろんだよ。じゃあ、目覚めるまでゆっくりしてくれていいよ。
お腹すいたでしょ?ご飯持ってくるね」

医師はゆっくり立ち上がると、こちらににこりと微笑んで、部屋を出ていった。
ひとつため息をついて、考える。

ここに入ることを条件に…。
俺だけじゃなくて、きっと、弥音も。
俺はいい。けれど、

弥音の将来まで、決めてしまったいいのだろうか。
弥音は賢いし、しっかりしてるから、色んな道があると思う。
それを、今、定めてしまったいいのかな。

「…せめて、俺だけ…」

ごそり、と、物音が、後ろから聞こえた。
勢いよく立ち上がり、慌てて視界を遮るカーテンを開ける。

「…っ弥音!」

弥音は、体を起こして、不思議そうに周りを見渡していた。
そして、俺を見つけると、嬉しそうに微笑む。

「良かった…知ってる人誰もいなくて、何処に寝てたんだろうって…」
「そっか…えっと、どこから話せばいいかな…」

ここの説明をするべきか、これまでの経緯を話すべきか…
俺が悩んでいると、弥音が、ある言葉を口にした。


「ねえ、お父さんとお母さんは?心配してない?」
「……っ…ぇ…?」


戸惑う俺をよそに、弥音は「いつもと変わらない」表情で、話す。

「学校から帰って…からあまり覚えてないんだけど…もしかして、私事故った…とか!?」
「弥音…待って…」
「お父さんとお母さん、何も言わずにここに来ちゃったから、警察とかに通報したら…」
「弥音っっ!!」

強く方を掴んでしまう。弥音は驚いて目を大きく開いた。
「…称?どうしたの?」

神様、俺に


「…まさか、
覚えて、ないの?」


俺に、どうしろって言うのですか




これが間違いだったか。と言われれば、間違いかもしれない。
でも、正解かもしれない。
結局、どっちに捉えるも、
俺たちの生き方しだいなんだ。

でも、少なくとも、
残酷な思い出を覚えているのは
俺だけでいい。

「ごめんね、弥音。巻き込んで」




医師が言うには、
「強いショックで、その時だけの記憶が抜け落ちてしまった」
とのこと。

家に帰ると、お父さんとお母さんが、何者かに惨殺されていた。

その事実は、弥音からは綺麗に消えている。
そして、弥音の中では、今も
お父さんとお母さんは、生きている。

…こんな事実、どう伝えたらいいのか。

医師は、「伝えづらいなら、こちらから話そうか?」とも言われたけれど、断った。
ちゃんと、俺から言わないと、ダメだと思った。

未だにベッドで俺の帰りを待っていた弥音。
傍に座って、真っ直ぐに弥音の顔を見る。

「弥音」
「うん、どうしたの?」
「…弥音は、ね。
…家に帰ってからの、記憶が…飛んでるんだ」

酷く細々とした声だった。
心臓がキリキリと痛むが、無理やり見ないふりをする。
きっと弥音は、もう一度、この痛みよりも、苦しい思いをするんだ。

「…そうなの?…私、いったい…」
「…っ…ぁ…」

お父さんとお母さんが殺された。
一文が、出てこない。
喉につっかえて、苦しくて。

「称?大丈夫?苦しそうだよ」

弥音が心配そうに顔を覗き込む。
…だめだ。弥音を心配させるな。
これから、残酷な事実を突きつけるのに!

「…大丈夫。
…あのな、弥音…

お父、さんと…おか…さん…っは…」

あぁ、その顔を、歪ませてしまう。
傷つけてしまう。
苦しませてしまう。
そんなの、望んでないのに…
笑っていて欲しいのに!




「…海外に、出張…するんだ」





ーなら、俺だけが抱えればいいじゃないかー





そう、心が囁いた瞬間、もう、言葉は止まらなかった。

俺は、弥音を傷つけることが出来なかった。
あんな顔を、二度と見たくなかった。
咄嗟についた、優しい嘘。

でも、この嘘は、俺の体に深々と突き刺さる楔のようだった。

それでも良かった。
弥音を絶望にたたき落とすくらいなら、

ずっと嘘をつき続ける方がマシだ。





弥音にはこう言った。

「家に帰ってからお父さんとお母さんは、
海外出張の話を、俺と弥音に話した。
突然決まったことらしく、慌てて俺たちの引受人を探したと。
そこで、この場所が高校卒業後の進路も保証すると言ってくれたので、そこでお世話になりなさいと。
弥音は、突然、お父さんとお母さんが離れてしまうというショックで、倒れてしまった」と。

もう、お父さんとお母さんは、空港に行ってしまった。とも。

弥音は、大きな瞳を潤ませて、ポタリポタリと雫が落ちる。
でも、すぐに涙をふいて顔を上げた。

「…お父さんとお母さんに、情けないところ見せちゃった…。
しばらくは会えないけど、でも、お父さんとお母さんは、海外で頑張ってるんだよね?
…なら、私もがんばる。ダメなところ見せちゃった分、お父さんとお母さんを安心させるために、すごく立派な人になる」

目を赤くさせて、可憐に微笑む弥音。
俺は、上手く笑い返せただろうか。

心臓が、痛んで痛んで仕方がない。
大切な人に嘘をつくということは、
こんなにも、苦しいものなのか。

「なら、明日から頑張らなきゃね!
ご挨拶もしなきゃ!」
「…うん」

弥音の手は、きつくきつく、ベッドのシーツを握っていた。





「お話出来たようだね。じゃあ、早速だけど、
君たちの身の回りのお世話をしてくれる先輩を紹介したくてね、良いかな?」

俺と弥音が頷くと、医師は微笑む。
「入っておいで」
と扉に声をかけると、ゆっくりと引き戸が開く。

入ってきたのは、黒い髪を一つにまとめた美しい女性だった。

「えっと…初めまして。あなた達のことは聞いています…。分からないこと、なんでも聞いてね…!」


あ、れ?


「は、はい!
…えへへ、優しそうな人でよかったね、称」



ドクドクと血が流れる。
目の前が真っ赤になる。
鼓動がうるさい。



痛い。



「…称?」


これは、これは

何?


理解ができない、俺の意識を置いていったまま、
体は勝手に動きだした。

まるで、これは。


ーー



「恋とは素晴らしいものです。
頭で考えていること、
心で止めていること、
理性。

そんなの関係なく、本能のまま、
相手に飛びつくのです!」

「まあ、812は「殺す」という形で恋をしていますが…
「恋」の形は人それぞれですよ?」

「だから、そんな気持ちを、
もっと、

たぁくさんのひとに、知って欲しいんですよ」



「名前は、クロユリ。


相手に恋をして

相手を呪う。

失敗作です」



ーー


称は、あの日から、
極度の女好きになってしまった。

あの日、初めて出会った女の人の手を取り、突然口説き出した。
本当にびっくりして、固まってしまった。

あまりにも、私の知ってる称が、する事じゃなくて…。

「この度は出会えたこと、幸せに思います。
あなたがわたくし達の面倒を見てくださるなんてなんと光栄なことでしょう。
こんな美しい方と共に居られること、幸せに思っております」
「…えっと…」

「…弥音ちゃん。称くんって、あんな感じなの?」
「…は、」


「初耳!!やめてよ称!!」
「ぐえっ」


私はその時、初めて称の頭を思い切り引っぱたいた。






称は、その日から、綺麗な女性や可愛い女の人を見ると、 片っ端から声をかけては口説き始める。
ストッパーなんてない。止めなきゃいつまでも口説く。

「やめてよ恥ずかしいでしょ!?」
「ぎゃん」

私はその度に、称を引っぱたいて止めていく。
こうでもしなきゃ止まらないことがわかってしまった。

称の女好きは、歳を重ねる事に止まらなくなっていく。
気がつけば、普段の口調も、女性を口説く時のものになっていた。
…女性と話さない時は、ちゃんとした男の子なのになぁ。

止まらなくなるにつれて、叩いても治らなくなってきた。
正直に言うと、私もそんな称にムカついている所もあるので、段々と暴力もエスカレートして言った。
最初は素手の手の平、そして拳、
段々と、
本、カバン、本の角、椅子、鉄バッド、
…今は2キロハンマーを使ってる。
他にも、壁にのめり込ませたり、
1回スタンガンも使ったかなぁ。
とにかく色々使ってる。

どっかのハンターみたいね、これじゃ。

でも、物理的に叩くと、称の無限の口説きは終わって、
通常の称に戻る。
だから、これは…仕方の無い暴力というか…。

はぁ、どうしてこうなっちゃったのかな…



ーー


お父さんとお母さんへ。
私は元気です。
今、高校はとっくに卒業して、私たちを引き取ってくれた場所で働いています。もう2年はたったかな。
でも、成人したのがこの前だから、やっと正規雇用というか…
だから、新人に変わりないんです。

称とは、ずっと仲良くしています。
いつも私を心配してくれて、ありがとうじゃ言いきれないほどの、ありがとうを伝えたいと思っています。

…でも、女の子好きは、直して欲しいかな…。

局の人たちも、いい人ばかりです。
…変な人をもいるけれど、でも、悪い人じゃないです。
それに、お父さんのような人もいます。
とても楽しい場所です。

…あの時はごめんなさい。お父さんとお母さんも、寂しかっただろうに、私だけ倒れちゃって。
だから、お別れも言えなかった。

でもね、称からきいてます。
お父さんとお母さんは、立派にお仕事を頑張っていること。

だから私も、ここで一生懸命働きます。

いつか、立派で、かっこいい女性になって、2人をビックリさせますね。

それまで、お仕事頑張ってください。

忙しくなかったらでいいので、
お返事くれると嬉しいです。


木蔦 弥音


ーー


弥音の手紙は、両親の墓に持って行っている。

「…父さん、母さん、弥音からの手紙だよ」

2人の墓は、ここから2駅離れた墓地に作ってくれた。
…ここは、「組織」達の被害者の墓らしい。
もちろん、全員いる訳じゃない。
局が把握している人達しかいない…けれど。
ここに行く時は、必ず弥音に嘘の場所を教えてから向かってる。

「…嘘だらけだなぁ、俺」

すぐ目の前の土を掘り起こし、鉄製の、少し大きめな箱が出てくる。
蓋を開けて、弥音の手紙をその中に入れる。
蓋を閉めて、再び埋める。
もちろん、ちゃんと許可を頂いて…の行為だ。

「読んでくれよ。俺達立派にやっているんだから」

中学の頃から、弥音は欠かさず手紙を書いていた。
不定期で、頻度もそこまで多くはないけれど、
3ヶ月二一回は…書いてるかもしれない。

俺は、代わりに出してくると言って、いつもここに持ってきた。

「…これが、罪滅ぼしになるなんて、思ってないから」

お線香を上げて、静かに手を合わせる。

「…空から見守ってください。
俺達は…二人で頑張っていきますから」

「俺は、嘘つきでいいから。最低でいいから」

「弥音だけは、守ってやってください」





罪悪感に、慣れてしまった。
哀れな
わたくし(おれ)。


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