第5夜後編 ちょっとだけ公開

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始まりの御三家。
聖杯戦争なんて言うものが出来たのは、そいつらが始まりだったという。

マキリ、トオサカ、アインツベルン。

トオサカは聖杯のための土地を提供し、
マキリは「サーヴァント」を縛るための令呪を。
アインツベルンは
聖杯を宿す器を。

こうして、魔術士の「悲願」
根源へたどり着けると思っていた。


残念ながら、失敗したようだが。


詳しくは知らないが、第3次聖杯戦争…だったか。
何故かその御三家、
「トオサカ」「マキリ」「アインツベルン」は
魔術だけを別の魔術の家計に密かに渡し、
その行方を眩ませた。
消失した、と言った方が正しいのか。

誰の仕業なのか、誰が仕組んだことなのか。
そもそも、この話は本当に正しいのか。
伝わった話を聞いただけの俺には、知る術は無い。


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「御三家から引き継いだ魔術、絶やす訳には行かない」
「犠牲を払ってでも、刻印を、技術を、魔術を、継いだんだ」

追い詰められた大人達の声が響き渡る。

「ねえ夕結、いやだっていいなよ。
わたし、夕結が居なくなっちゃうの嫌だよ」
「でもこれは、いちばん上の子供がしなくちゃいけないんだって。
だいじょうぶだよ。魔術師の子供なんだから」

家族は笑っていた。
ーーー兄が進んで彼らの「道具」になることを、魔術師は喜んでいた。



家族は泣いていた。
ーーーああ、無茶だったのだろう。どうも兄は耐えられなかったらしい。
泣きわめく声が、屋敷一体に広がる。

…いや、あれは、嘆く声だろうか。



家族は、傷ついた。

ーーー…「どうして、どうしてそんなに平気な顔をしているの?」




「……」
「だって」

「それが魔術師としての役目だから」




あの頃から俺は、

皮肉なことに、
体も、心も。



「兄さんと姉さんは頼りにならない。
俺が、この家を継ぐ」

「ーーーー「魔術師」に、なる」

「だから、魔術師じゃない「結城」として生きるのは、
その2人だけでいい」

「俺は、この家で、魔術師としての生涯を歩む」


魔術師としての「才能」の芽生えの証だったのか。



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いつかの夢を見た。

「***」と、出会った夢を見た。

夕方の、寂れた公園だっただろうか。
今も昔も、遊べそうな場所が、砂場1つしかない。
昼過ぎには、太陽が近くの高層マンションの陰に隠れてしまい、陰気な雰囲気が漂う。


「それはなんですか?
随分と、あなたのような子供が持つには、不釣り合いなものだと伺えます」

そいつは言った。
あの時、俺の持っていた「物」をみて。

「分かるってことは、あなたは…」
「質問にお答えください。こちらの詮索は、応答に必要ないでしょう」

「…はぁ、
「作った」のですよ。「魔術回路」を停止させ、魔力の供給を「生命活動に影響のない範囲まで」下げる…「才能」を断ち切る腕飾りです」
「なるほど。上手く使うことが出来れば、相手を無力に出来そうですね」
「魔術師、学生の境界線を自分で作ろうとしたのですよ。
昼間、学業に励む時は「これ」を付けて。
夜間、魔術師として学ぶ時は「これ」を付ける」
「……」


「なぜ魔術師と学生の境界線を作る必要があるのです」
「……え?」

青色の瞳は、静かに見つめていた。

「我々魔術師は魔術師であるだけ。「学生」という気分を作って何をしようと言うのです?
所詮、学生という姿は、人の真似事。
魔術師は魔術師らしく、「人」であることを捨てたらいい」
「…」

妙に似合わない、そいつの学生服。
その理由は、そいつ自身が、自身のことを
「人」だと思っていないからだろうか。

しかしまあ、
そいつは、今思い出しても、
寒気がするほどの淡白な声色だった。


「その余計な考えの、解決法を教えてあげましょうか」

ーーーーーーーなんの温度もない、表情。

「「執着」…「感情」を捨てるのです。
そんなものは人間を弱くするだけのもの」

「敵を討つという信念さえあればいい。
それ以外のものなど、不要なのです」



「だってそうでしょう。
心があるから、人は迷う。
感情があるから、人は戸惑う」

「そんなもの、要らない」



ーーーーーーー星のように眩しい、鮮黄だった。




「それが、
僕がたどり着いた答えです」



ーーーーーーー月明かりを浴びた海のように、深く透き通った碧の瞳だと思った。




「きっと、あなたなら、
「僕」と同じようになれるのでは無いですか?」




あぁ、本当に、
随分

今とは違ったんだな。



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-7-

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