心幸について

「不幸を呼んでしまうのならば、そのぶん、誰かを暖かくしたい。
俺には、それしか出来ないと思うから」


両親が虐待の罪で捕まってから、
3兄妹はバラバラになった。

心幸は、既に1人息子がいる、母の姉の家へ預けられた。
その一人息子が、まだ赤ん坊のはしら
父親がカウンセラーのため、
虐待の被害がいちばん強かった心幸への、ケアが常にできると言う判断。

しかし、心幸が来た途端に、父親は事故に合い、死亡してしまう。
母親は、父親の死で心を病んでしまう。

「こうは思いたくないけれど、思ってしまう。

あなたが来たから、父親は死んだようなもの。

あなたは、不幸の塊みたいね」

母親はそう言い残し、病棟へと入っていった。

残された心幸とはしらは、
遠く離れた親戚の、とある女性の家へ預けられる。
自然が生い茂る庭に、優雅にそびえるクラシックな建物。
その隅で、優雅に静かに、お茶を嗜む可憐な女性。
小さな白いテーブルには、高貴ななティーセット。
椅子はシンプルなはずなのに、
その女性が座っていると、
どこか有名な職人が作ったように見えてしまう。

その家は、家族としては女性ひとりだけだったらしい。
家にはハウスキーパーや、家政婦さんが来てくれて、
家事を全てこなしてくれるらしい。


はしらを家政婦に預けて、
女性は心幸を、テーブルの反対側へと案内した。

「ここがあなたのこれからのお家よ」
「…」
「でもね、おうちと思わなくてもいいわ。
私としてはね、
「いつでも帰って来れる場所」
と思っていてくれればいいの。

私はきっと、あなたの本当の家族にはなれないから」
「…?」
「あなたには、他に大切な家族がいるでしょう?」

それは心幸にも分かってる。
もうこの世で、血を分けた家族は、
その二人しかいない。
だけど

「…でも、俺は、一緒にいる人を不幸にする。
きっと、あんたも不幸にする」
「そう誰かに言われたの?」
「前の母さんに言われた」

「心幸、不幸かどうかは、私が決めるわ。
きっと、大きくなったはしらもそういうはずよ。

そして、あなたの可愛い妹たちも、きっと」
「…!」
「生きていればね、どうしたって、
運命の嫌な重なり方をしてしまうの。

それで、勘違いを生むことはある。

けれど、誰もそれを、望んで起こしてなんか居ないわ」
「…っ…」
「だから、どうか、思い込みで関係を絶ってはいけないわよ。
あなたが誰とどう生きるも自由だけれど、

「家族」だけは、信じてあげなさい」


心幸は、その言葉で少しだけ救われた。
「自分が不幸にしたわけじゃなかった」

学生の頃は、勉強はあまり手付かずだった。
その代わり、弟の世話をしたり、
料理が苦手な女性に変わり、
家政婦から料理を教わったり、家事を教わったりしていた。

「この人はひとりじゃなんにも出来ないのかよ」

そのくせに、なぜか、話す言葉は、妙に力が入っている。
不思議な女性だった。

知人からのつてで、刑事という道を選んだこゆき。
一人暮らしをすることを決めた。
(その際に、学校が近いからとはしらもついてきた)


そこで、かつて生き別れた妹と出会った。
妹は涙を流し喜んでいたが、心幸は心がじくじくと痛む。

ーあなたは不幸の塊だー

その言葉が頭を埋め尽くす。
心幸は声を振り切って、

妹の心陽に問いただした。

「俺と一緒だと、不幸になるかもしれない。
前の母さんに、そう言われたから。
だから、本当は、お前と一緒にいるべきじゃないんだ」

「私は生まれた時から、お兄さんといて、不幸と思ったことはありません!
どんなに辛くても、お兄さんや千陽が居てくれたから、笑っていられたんです。

お兄さんは不幸の塊じゃありません。
私たちを、暖かくしてくれる存在なんです」


ーー不幸かどうかは、自分で決める。

妹は否定をしなかった。
暖かい存在だと言ってくれた。

誰かを少しでも、幸せな気持ちにできていたのならば、良かった。
俺は、不幸の塊じゃなかったんだ。

心幸は自分を改める。
暖かいと言ってくれた心陽、
自分に着いてきてくれる、血は繋がってなくても
弟の、はしら。
そして、もう1人の、大切な家族の千陽。
あとは、まだあの家で、紅茶を嗜んでいる…。

それだけじゃない、増えていく、知り合いや友人、大切な人々。
その人たちを、不幸にするんじゃなくて、
暖かく…

いや、
自分も幸せを、願ってもいいのだろうか。

この考えは、神様から見たら
「傲慢だ」とでも言うだろうか。
ひとつの家庭を踏み台にしたのだから。

でも、
俺は、その選択に、悔いはない。

今、見えている「もの」が、全て真実だから。
きっと、俺がそう願うことは、間違っていないと思う。
その真実が、まだ続くように。

めったに、口では、言えないが。

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