編集長について

「俺は綺麗な女が好きだ。可愛い女も好きだ。
べっぴんさんはいくら見ても飽きない。
女好きで困らないかって?なんにも困ったことは無いな。
俺は特定の誰かを愛することはしないんだよ」

高校の時、一人の女の子を好きになった。
また、相手も、彼のことを好いてくれた。

気持ちが同じもの同士、恋人になる時は早かった。
月日は流れて、大人になって、
結婚することも決めた。

「きっとこのまま、幸せに過ごせるんだろうな。
この人と、いつまでも」

「子供が思い描くような、純粋な恋」をした。



相手から別れたいと告げられたのは、結婚を誓い合った次の日だった。
あまりにも突然すぎる。
寄りにもよって、次の日なんて。

俺は尋ねたさ。
なんでだってな。そりゃあもう子供のように。
そしたらな、あいつはなんて言ったと思う?


「私は子供の恋を望んでいない。
「恋」というものを終わらせたくない。

あなたと結婚してしまったら、
「だれかに恋をされている私」はいなくなって、
あなただけのものになってしまう

そもそも私は、誰か一人を愛したりしない。
ごめんね。

私はもっと、「たくさんの人」と恋がしたいの」


訳が分からなかった。
なんて身勝手で、夢見がちで、罪深い夢なんだろうって。
俺が思い描いたものも、夢見たものも、感じたものも、
その子にとってはなんてことは無い。

むしろ、たくさんの人間から、思われていたことなんだろう。
俺も、その1人だったというわけだ。



もちろん、それを聞かされたら、引き止める理由は無い。
傷心のまま、彼女と別れたさ。
ま、今となってはもう名前すら覚えてないがな。


その時から、一つだけ変わったことがある。

俺は、もう、特定の誰かを愛さないと決めた。
愛されても、否定する。
愛することを、否定する。

きっと、俺は、前世で酷いことをして
誰かと愛し合うことを許されてないんだろう。

心から決めた人との結末が、あんな酷い結果だったのだから。


俺はそこからただの女好きだ。
誰かを愛さないと決めた瞬間、誰もが魅力的に見えた。
綺麗に見えて、可愛らしく見えて

愛しく思えなかった。


それでいい。俺は誰も愛さない。
こうやって、いい女を眺めて
酒のつまみにでもするくらいが俺にはちょうどいいんだ。


35になった時だった。
昔お世話になった人と、偶然出会った。

よくお世話になっていたんだ。
まるでお母さんみたいな人でな。

その人が言うに、最近変わった子が、住んでいるマンションに入ってきたらしい。

「まるで学生さんみたいな見た目なんだけどね、一応成人さんなのよ。
でも…ちょっと愛想がねぇ…。
だから、周りの人からはあまりよく思われていないわ。

それに、いつも家にいるみたいなの。
出る時は、コンビニとかごみ捨てくらい。
お仕事は何されてるのかしらね。内職とかかしら」

「あぁ、そうそう、偶然。あの子よあの子」


まるで子供みたいなクソガキだなぁ。

こちらを見向きさえしない少女に、

その時は、そうとしか思わなかった。




その少女と再びであったのは、街の本屋だった。
まとまりがない茶髪に、見覚えがあった。

例の少女が、本屋でじっと、1冊の写真集を手に取っていた。
それは、世界各国の世界遺産や、景色を収めたもの。

その少女の瞳は、
少しだけ、キラキラしていたように見えた。


「その本が好きなのか」
「っ!?」


そう。その時俺は、思わず声をかけてしまった。
別に美人だから声をかけようとした訳でもない。ちんちくりんだし。

ただ、放っておけなかった。



「俺のこと…は、まあ覚えてなくても無理はないな。
いきなり声掛けてすまなかった。
お前が住んでるマンションの知り合いに、お前のことを教えて貰って」
「話しかけるなロリコン通報するぞ」



それがファーストコンタクトだったな。



その日から、何回か本屋に足を運ぶようになった。
当然、あの失礼なガキと会うことになる。
むしろ、ガキを見たくて行ってたんだ。

なんか、放っておけなくてな。

最初はロリコン呼ばわりされたり、通報されかけたり散々だったが、
少しずつ話すことは出来た。

聞いた話じゃ、
仕事もなく、貯金だけで今は生活してるとのこと。



いやよく生きてこれたな。



思わず、彼女をうちの職場で働けばいいとスカウトする。
そこに女とか関係ない。
このままでは関わった人間が野垂れ死にする。

そしたらアイツ、なんて言ったと思う



「僕は働きたくないから嫌だ。お断りだロリコンネギ頭」



「お前それで
社会生きていけると思うなよっっ!?!?」


俺が初めて千陽に怒った時が、その時だった。



灰獄千陽は、全てにおいてやる気のない人間だった。
もはや無理矢理と言っていいほどだが、
バイトという形で、俺の編集部に入れさせた。


だが、初出勤から綺麗に来ない。
どれだけ電話を掛けても、出ない。

1度だけ通じた電話で、こんなことを尋ねた。

「お前そんなんで親に顔向けできんのか!?
父親も母親も泣くぞ!?」

「…」

「そんな貯金があるってことは、両親が心配してたんだろ?
愛されてるってことじゃないか。無駄にするなそれを…」

「…」



「…僕には泣いてくれる家族はいないよ。
もう、責任と義務の関係は切れたんだから」

「愛されることなんて、なかった」






俺が灰獄を放っておけなかったのは、
少しだけ、同じ匂いを感じたからなのかもしれない。

「愛について、諦めていること」

灰獄は、愛されることを諦めている。
俺は、愛することを、あきらめた。

似ているようで違う。
違うようで似ている。

俺は、灰獄を根気強く、教育し直すことを決めた。
(それは本来、俺が望んでいた未来だったのかもしれない)

そのかいあってか、灰獄は度々と顔を見せるようにはなった。
完全に出勤してはたらいているというわけではないが、まだ進歩だ。

「子供が成長した時の気持ちに似ていたりして…なんてな」






夢見た俺の人生は終わった。
今は、愛することを諦めて、
1人の誰かを見つけることを拒み続けている。

それでも、大切な職場や仲間、子供みたいな奴もいる。
なんだかんだ、幸せなんだ。


きっと、あの時、神様が、愛を奪った理由は
俺は、こういう生き方で、
幸せを掴むべきなのだと、
教えていたのだろう。

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