入試
「受験票持った?明日、大丈夫…?」
『持ったし、大丈夫よお母さん。行ってくるね!明日の夕方には帰ってくるから。』
「気をつけてな。海咲なら大丈夫だろうから、頑張れ!」
『ありがとう、お父さん。行ってきます。』
時間が経つのは早いもので、気が付けば明日はもう雄英高校の入試だ。元来勉強は好きだったのだが、少々不安な気持ちは残っていた。
家から雄英高校までは、とてもじゃないけどすぐ行ける距離ではないので、入試前日の今日、ホテルに泊まりそこから試験会場へ向かう。
両親共明日は仕事があるのでついていけないからと、ずいぶんと心配そうに見送られた。
―――正直、一番不安なのは実技試験だ。
何をやるのかもわかっていない上、まだまともに扱っていない装備たちもそうだ。優秀な子たちだが、如何せんブランクがある。
そこまで考えて、頭を振った。分からないことを悩んだって仕方ない。自分に出来ることをやるしかないんだ。
深呼吸をひとつして、新幹線に乗った。
* * *
翌日、朝早くに目が覚めて余裕を持って試験会場へ行けた。
予想をはるかに上回る人の多さに、改めてすごい学校なのだと思い知らされる。
それだけ、ヒーローを目指す人がいて。負けたくないと、強く思った。
まずは筆記試験。それを終えたら次は実技試験だ。
『(意外と出来た、かしら…。)』
しっかり勉強した甲斐があったようで、筆記試験はなかなかの出来だった。空欄は作らなかったし最後に確認する余裕もあった。
答えに自信が無いところもあるにはあるが、それでも合格ラインには達している自信はある。
…問題は、次の実技試験。
「今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!」
『うわぁ…』
実技試験の説明をしてくれるのはどうやらボイスヒーローのプレゼント・マイクのようだ。
そのテンションの高さに思わず声が漏れる。
誰も彼の言葉に返す人はいなかった。
「こいつぁシヴィーーー!!!受験生のリスナー!
実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!
アーユーレディ!?」
YEAHH!!というのもプレゼント・マイクのみ。受験生たちは何も言わない。それが、そのテンションについていけず呆気に取られているからなのか、これからの試験への緊張からなのか、そもそも返す気が全くないのか、そんなことは分からないけど、目の前に座っている緑のモサモサ頭の子はずいぶんと興奮した様子だった。
「ボイスヒーロー「プレゼント・マイク」だすごい…!!
ラジオ毎週聞いてるよ感激だなあ雄英の講師は皆プロのヒーローなんだ…!」
「うるせえ」
小さい声ではあるがしんとした会場内では少し目立つ。隣に座っているつんつん髪の男の子が辛辣に返しても気にしていないようだった。熱烈なファンなのかな…?
「入試要項通り!リスナーにはこの後!10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ!!
持ち込みは自由!プレゼン後は各自指定の演習会場へ向かってくれよな!!O.K.!?」
『(模擬市街地演習…。模擬なら多少の建物の建物の破壊とかは許されるかしら…。)』
手元のプリントを見ながら説明を聞く。
三種の仮想ヴィランを行動不能にしてポイントを稼ぐのが今回の実技試験の内容らしい。
それぞれ攻略難易度に応じて得るポイントも違うようだ。
しかしそこで疑問が生まれた。プリントに記されている仮想ヴィランの数は四種。ミスかなにかなのかと考えていると、一人の男子生徒が手を挙げた。
「質問よろしいでしょうか!?
プリントには四種のヴィランが記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!
我々受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!
ついでにそこの縮毛の君!」
「!?」
「先程からボソボソと…気が散る!!物見遊山のつもりなら即刻ここから去りたまえ!」
質問をしたついでに、モサモサ頭の子に注意までしていた。言い方はきついが正論だ。言われた方は「すみません…」と震える声で謝っていた。
「オーケーオーケー、受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!
四種目のヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫!スーパーマリオブラザーズやったことあるか!?あれのドッスンみたいなもんさ!
各会場に一体!所狭しと大暴れしている「ギミック」よ!」
「有難う御座います!失礼致しました!」
綺麗なお辞儀を見せてから、質問した男の子は席についた。
各会場に一体しかいないのか、そのお邪魔虫のヴィランは…。
誰かが言った「ゲームみたいなもの」という言葉。そう簡単にいくものではないだろう。
説明は終わりかと思ったがプレゼント・マイクは言葉を続けた。
「俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校校訓≠プレゼントしよう。
かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!
「真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者」と!!
Plus Ultra=I!
それでは皆、良い受難を!!」
その言葉を聞いた瞬間、ぞわりと全身に鳥肌が立った。良い受難、なんて。やってやろうじゃないですか。
口元が緩む。今きっと変な顔しちゃってる、でも仕方ないじゃない。どうしようもなく、わくわくしてしまっているんだもの。
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よい子の箱庭