再会
雄英に入学が決まったその日からは目が回るほど忙しかった。一人暮らしのための部屋を探しに行ったり、必要なものを買い揃えたり。
比較的に学校から近いマンションはまだ築年数もそんなに経っていない新しいもので、セキュリティもしっかりしている。「女の子の一人暮らしなんだから」というお母さんが選んだところにした。
部屋の片付けを手伝ってくれた後、両親は帰った。心配そうに私を見る2人に「大丈夫」と言ってなんとか宥めた。
―――――そして、入学式。
『(大きいなとは思っていたけど、こんなに大きいなんて…。)』
1-Aの教室はこちらだったか、とふらふら周りを見ながら歩いていると目の前を歩いていた人にぶつかりそうになってしまった。
すんでのところで気づいたのでぶつからずに済んだが、相手もこちらに気づいたようで。
『ごめんなさい、余所見して歩いてたから…』
「あ、あぁあ!!いえ!!こちらこそ?!」
『(こちらこそ…?)あ、』
「え?」
『あなた、入試の説明の時に眼鏡の子に怒られてた…』
もさもさの緑の髪を見て思い出し、そう言うとかぁっと顔を赤らめる。「えっと、あの、」だなんて言葉にならない声を漏らして両手を忙しなく動かしてわかりやすく恥ずかしいというのを表に出している。
なんだか悪いことを言ってしまったな、という気持ちになって教室に行こうと促す。
『そういえば、自己紹介がまだだったわね。鞍馬海咲です。あなたは?』
「あっ、ぼ、僕は緑谷出久です!これからよろしく…」
おねがい、します……と声が尻すぼみになる。照れ屋なのだろうか、視線をあちこちにやりながら自己紹介を終えた。
出久が心の中で、女子と、喋っちゃった……!なんて思っているのを知らないまま、不思議そうに力強く握り締められた拳を見ていた。何かいいことあったのかな、など考えながら。
少し歩くと1-Aの教室が見えてきた、が…ドアが、ものすごく大きい。
「ドアでか…」
『バリアフリーかしら…。』
「あの受験者数から選ばれた人たち…」
『早く入りましょう?』
ぽん、と出久の背中を軽く叩いてドアを開ける。大袈裟な程にビクッと反応された事には気づかないふりをした。早々に聞こえてきたのは、怒鳴り声。
朝からまた元気だなぁ…と思いながら教室に入ると、「なぁ、」と話しかけられる。ずいぶんと雰囲気は違っているが、確か……
『切島、くん?』
「鞍馬、だよな!」
『ええ。何だか、会った時と大分変わっているようだけど……ふふ、私の言ったとおりになったわね。』
「う……まぁ、お互い入学できて良かったな!これからよろしく、鞍馬。」
『こちらこそよろしくね、切島くん。
それと、出来れば下の名前で呼んでほしいわ。苗字はちょっと…慣れなくて。』
握手を交わした手はがっしりとした大きな手だった。
挨拶のついでに名前で呼んでほしいと伝える。苗字は何の縁だか知らないが、偶然にも自分の艦名の候補だ。深いつながりを感じるような、それならば伊吹でも良かったのでは…という思いもあるような。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。
ここは…ヒーロー科だぞ。」
突然聞こえてきた声に皆注目する。ドアの前には寝袋に入ったままゼリー飲料を飲む男性がいた。
(なんか!!!いるぅぅぅ!!!)
恐らく皆同じ事を思っただろう。
寝袋から出ながら男性は言葉を続けた。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。
時間は有限。君たちは合理性に欠くね。」
『(先生、だったのね…。)』
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
『(しかも担任だったのね…!!)』
そして寝袋の中をなにやらごそごそとあさり取り出したのは体操服。
「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」
入学式やガイダンスは?聞こうと思ったが、どうせ後からわかることだろうと体操服を持ち更衣室に移動する事にした。
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よい子の箱庭