裸足で深海を行け_7.5


「何を見ているんですか」
「何って、学生時代の七海さ、ハッ!」

 流れるように振り向くと、当然そこにはお風呂上がりの七海さんがいた。しまった! ヤバイ! 慌てて携帯を伏せようとしたが、その大きな手に捕まってしまい私にはもう抵抗の術がない。
 画面に映る、やや画質の悪い写真を見て七海さんはしかめ面をした。奇しくも、画面の中と同じ表情。

「……五条さんの仕業ですね」
「ち、違うんです!」
「違わないでしょう」
「ハイ違わないです」

 ドライヤーの済んでいない湿った髪のまま、七海さんは私から携帯を奪取し、隣に座った。ソファに正座し直した私は、判決を待つ罪人の気分だ。つむじに視線を感じながら、五条さんとのトーク画面消されませんようにと祈る。だって、まだ保存してない秘蔵の七海さんコレクションが……!

「なぜ五条さんと連絡を取っているんですか」
「この前お会いした時に、連絡先を交換しました。たぶん」
「たぶん?」
「気付いたらメッセージが届いてたんです。これは本当ですよ! 浮気の心配はないですからね! 本当に!」
「その心配はしていません。ではコンタクトを取ってきた五条さんに私の盗撮を横流ししてもらっていたわけですね。私に隠れて」
「ハイソウデスごめんなさい。でも「学生時代の七海の写真、要る?」とか言われたら要るって答えちゃっても仕方がな」
「反省してるんですか?」
「それはもう、ハイ……」

 上げかけた顔を再度伏せる。七海さんのあの長い溜息が聞こえてきたので、自然と背筋が伸びた。七海さんは教師に向いていると思う。劣等生の私がこの有様なのだから。

「だいたい五条さんじゃなく、私に直接言えばいいでしょう」
「昔の写真くださいって頼んだらくれたんですか?」
「……」
「返事がない!」

 ポーカーフェイスを保って黙る七海さんの肩を揺するも、やはり返事はない。そして身体が全然動かない。すごい体幹。いや、言ってる場合か。
 七海さーん、聞いてますー? 顔を覗き込み、額に張り付いていた濡れた髪を払ってあげると、ようやく目が合った。そのまま引き寄せられて、膝の上に乗り上げるかたちに収まってしまう。
 身を捩って携帯を取り戻そうと画作したが、七海さんの腕の長さにはまったくもって歯が立たない。

「とにかく、この写真は消しますよ」
「ええ〜」
「ええ〜、ではありません。こんな仏頂面見ても楽しくないでしょう」
「楽しいですよ」
「残念ながら私は楽しくないですね」

 黒づくめの服(五条さん曰く制服だそうだ)を着た学生の七海さんの写真が呆気なく削除された。
 わざとらしく肩を落とすと、七海さんの硬い手が慰めるように私の髪を梳いていく。ふふふ、まあ別に、良いんだけどね。私は顔を伏せてほくそ笑むのだった。

「ミョウジさん」
「はい」
「バックアップはどちらに?それも消します」
「どうして分かったんですか?!」
「アナタの考えくらい見当がつきます」

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