裸足で深海を行け_8.5


「ああそうだ七海さん、写真を撮ってもいいですか?」
「私の写真を、ですか?」

 朝食に使った食器を洗いながら、隣で皿を拭いてくれている七海さんにそう声をかけた。まだ髪を下ろしたままの彼は怪訝そうに眉を顰めた。髪をセットしていないと、険しい顔も普段と比べて圧が半減して見えるなあ、なんて思いながら頷いた。

「はい。少し先ですが今度の年始は帰省する予定で。そこで家族に自慢の彼氏を見せびらかそうかなと思いまして」
「はあ……」
「お願いします。いい人がいるって証明しないと多分お見合い組まれちゃうんですよ。……あ、でも呪術師の方って存在を伏せているようなきらいがありますよね。写真はNGだったりしますか?」
「いえ、構いませんよ」
「やった! ありがとうございます」

 最後に、すっかり自分用になっているマグカップの洗剤を濯ぎ、七海さんに手渡した。シンクの中に残っていた泡を流して手を拭き、ポケットからスマホを取り出した私は、カメラを七海さんに向ける。
 加工なしでこの顔面偏差値、すごすぎる。雑誌の表紙飾れちゃうでしょ、これ。

「……私単体の写真って意味ありますか?」
「はい?」
「二人で撮りませんか。その方が説得力があるのでは」

 重ねた皿を棚に戻しにゆく七海さんの背中を眺めながら、まあ確かにそれも一理あるなと思った。
 しかし。しかし、である。

「七海さんとツーショットですか…………………加工アプリを使ってもいいですか」
「冗談でしょう」
「ですよね」

 すげなく却下され、唸る。ツーショットは魅力的ではあるが、とびきりかっこいいオフ状態の彼氏の隣に、お気持ち程度のメイクしか施していない私が並んで記録に残るのかと思うとやや複雑な心持ちだ。絵面的に、耐えうるだろうか?

「撮られる側は嫌ですか?」
「嫌とまでは言いませんけど、得意ではないですね。それに今、顔の完成度がちょっと……」
「変わらず可愛いと思いますが」

 そう言うと七海さんは、私の手から携帯を奪い空いている手で肩を抱いてきた。素早くシャッター音が数度鳴る。
 驚く間もなく返された携帯には、身を寄せ合う二人が上手に収まっていた。へえ、七海さんって自撮りも上手なんだな〜って、そうじゃなくて。

「それ、私にも送ってください」
「えーっ! 直前で七海さんが要らんこと言うから私、変な顔してるじゃないですか!」
「そうですか? 私は好きですよ」

 揶揄われている。
 そう判断した私がやけくそになって「ですよね、ありがとうございます!」と言い切ると、自身のスマホを取りに行った七海さんの肩が小刻みに揺れているのが見えた。今日の七海さんはすごく意地悪だ。

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