1話 出会いと、守りたい笑顔
「翠蓮、今日からうちで世話する事になった絢太(あやた)だ」
翠蓮が3歳のまだ幼い日に、蘭組にはある5歳の男の子がやってくる。
借金の代わりにされて組に引き取られた男の子は貞島(さだしま)絢太と言い、死んだ目をしていた。
身体中には痣や傷、根性焼き痕もあり、虐待されていたのがわかった。
しかし翠蓮は当時まだ3歳でまだ家の事も、絢太が家に来た理由も、彼が死んだ目をしている理由も何も分からない。
ただ同世代の少しお兄さんが遊び相手になってくれるのかと喜んだ。
「おにいちゃん!すいれんとあそぼ!!」
「…………」
「……??おにいちゃん??」
絢太と日本庭園かのような広い庭で遊ぼうとせがむ翠蓮。
しかし絢太は部屋から出た所で立ち止まる。
「……お前、ヤクザだろ?この家は酷いことする所なんだろ?」
「……??」
絢太は恐怖に震えた声を絞り出すが、翠蓮は少し訳が分からずぽかんとするが、またぽやぽやしたまま、にこぉと笑った。
「ここのおうちのみんなはやさしいよ!ちょっとこわい時もあるけど、みんなはやさしいの!」
「……でも、俺は」
「……すいれんね、おにいちゃんきてくれてうれしい」
「え?」
「……おにいちゃん、すいれんきらい?」
絢太を見上げる翠蓮が少し泣きそうな顔をしたので、ぎょっとする。
好きか嫌いかは分からないがなんとなく守らなきゃいけない気がした。
「……このおうち、ちっちゃいのすいれんだけだからさみしい。たまにみんなこわいし……」
「…………」
5歳の自分もヤクザなんて怖いのに、3歳の翠蓮がヤクザを怖くないわけが無い。
ヤクザの意味もまだわかってないこの少女のぽやぽやした可愛らしい笑顔を守ってやりたいと思った。
「…………仕方ないから遊んでやるよ」
「ホント?!」
「うん。なにすんの?」
「おままごと!!」
「げぇっ」
嫌な顔をする絢太にまたしょぼん……と悲しそうな顔をする翠蓮。
何故かいじめている気分になって絢太はおままごとを承諾して、翠蓮と遊んであげたのだった。
それから数年。
「お嬢、どこに行くんですか?」
「どこでもいいでしょ」
「俺も行きます」
「嫌」
幼い日は明るい翠蓮がクールな絢太に引っ付いて離れなかったが、翠蓮が15歳になった今はいつからか立場が逆転している。
今は『妹的存在』と『兄的存在』という関係性から『ヤクザの一人娘』と『世話係』という関係性に変わっている。
「いや、待ってくださいお嬢。お嬢に何かあったら俺が親父に怒られます」
「……はぁ。勝手にすれば」
スタスタ歩いていく翠蓮の後ろを犬のように嬉しそうに着いていく絢太。
翠蓮はそれが嬉しくもあり、寂しかった。
「ちなみに何処に行くんです?」
「……本屋」
「もしかしてあの恋愛漫画の新刊ですか?」
「……うるさい」
顔を赤らめて恥ずかしがる翠蓮。
彼女はそんな恋愛など興味ないようにみせているが実はそういうのが大好きなただの女の子だった。
絢太はそんな翠蓮を、守りたい。
ーつづくー