洵と春樹の長女、洵菜の恋

洵と春樹の長女、洵菜の恋


私は叶わない恋をずっとしていた。

相手は双子の兄。
叶わない。
しかも、あいつは別に好きな人がいる。

相手は父さんの従兄弟の雅さん。
ずっと小さい頃から想ってる。
馬鹿みたい。

でも、そんな冬樹をずっと想ってる私は、もっと馬鹿。

「……だって。私は冬樹がいればいいもの」

「はいはい。そーね」

「ちょっと、ちゃんと聞きなさいよ」

適当に相槌を打って寝返りを打つ冬樹。
私はそんな馬鹿の背中をガンッと蹴ってやる。

「いってー!!何すんだよ!!」

「なんか腹立ったから」

「おい、待て!!」

私は冬樹が呼び止めたのも無視して冬樹の部屋を出る。

あーあ、馬鹿みたい。
なんで、こんなつらい恋、したんだろう。

私は自分の部屋で、泣いた。


それから何年か経って、冬樹には恋人が出来た。

その人は、驚くなかれ。
父さんの従兄弟で、雅さんの19歳下の弟の慶人さんだった。

私は気持ちの置き場がなくて、冬樹に当たり散らす。

「あんた、馬鹿なの?相手男で、しかも雅さんの弟とか馬鹿じゃない!!」

「馬鹿馬鹿うるさいな、お前には関係ないだろうよ」

関係ないって言われてしまい、カッと頭に血が上る。

「どうせ、雅さんとは叶わないからって慶人さんに……っ!」

ーパンッ

冬樹に平手打ちされたと気付くのに、時間はかからなかった。

冬樹は泣いていた。
泣いて、家を出て行った。
慶人さんのとこ??

いいよね。
逃げる場所があって。

「……違う、私は」

男同士が気持ち悪いとかじゃなかった。
だって、生まれた時には秋斗さんと雅さんがもう目の前でイチャイチャしてたし。

ただ、

冬樹を慶人さんに盗られて、悔しくて、悲しかったんだ。

それが、早朝だった。



ーピンポーン

「はい?って、え?!洵菜ちゃん?!なしたん??こんな所まで……」

私は、悔しくて、悲しくて、貯めていたお小遣いをはたいて大阪の雅さんの家に向かった。

両親や他の兄弟からの電話やLINEがうざったくて、スマホの電源を新幹線の中で落とした。

家には秋斗さんと雅さんが一緒に暮らしている兄弟の弟の方の藤さんがいた。

他のみんなは仕事でいなかった。

「どうしたん?」

家に入れてくれた藤さんは優しく私に問いかけてくれる。
私は、ただただ泣きじゃくった。
でも、藤さんはただただ頭を撫でて「うん、どうしたん?大丈夫やで?」とずっと傍にいてくれた。

「……ごめ、なさい」

「んーん。ええで。とりあえず、春樹さん達に連絡してもええ?」

「……でも、」

「大丈夫。あの人らは優しいから」

藤さんは私をあやしながらスマホを操作して、母さんに連絡する。
でも、しばらく話してから「洵菜ちゃん、今は気が動転してるからまた落ち着いたら連絡します」と言って、電話を切る。

そして、またスマホを操作していた。
不安そうにしている私にスマホを見せて、「父さんらに連絡してるだけやから」とまた頭を優しく撫でる。

ああ、優しさが、つらい。

つらいついでに、藤さんの肩に額を乗せる。
藤さんは一瞬びっくりしてたけど、また優しく頭を撫でてくれた。

「……私、失恋したんです」

「……うん、なんとなくそうかなって」

「……なんで、わかったの?」

「……冬樹くんやろ?」

私はその藤さんの発言に恐ろしくなって、バッと勢いよく離れる。

なんで、どうして、

「……冬樹くんからお父さん宛に連絡来て。恋人出来たからって」

「ちが……なんで、私、」

「…………僕が、ずっと洵菜ちゃんを、見てたからかな」

「え??見てた、って??え??」

困惑が隠せない私に、藤さんは優しく笑う。

その笑顔が恐ろしく妖艶で、でも、なんか安心して。

意識した事なかったけど、意外に大きな手が私の頬を触る。

「僕にすればええ」

「……藤さんは、ロリコンなの?」

恥ずかしくて思わず私はそんな事を口走っていた。
そんな私に、藤さんは私の頬を触れていた手で膝をバシバシ叩いて大爆笑する。

「あっははははは!確かに、ロリコンかも!!」

「ちょ、笑うことなの?」

「あはは、ごめんごめん。でも僕は洵菜ちゃんしか見てへんから」

僕に、しとき。

その言葉は何よりも甘い響きだった。
でも私は冬樹が好きで、好きで、好きで、大好きで。

「私、」

「……僕は長期戦でもええから」

「……ぅっ、ぅぅ……」

私は、その甘美な響きに号泣して、藤さんの腕でずっと叶わない恋を憂いていた。

それから直ぐに母さんが迎えに来てくれた。

めちゃくちゃに怒られたけど、でも、無事ならよかったって抱き締めてくれたから、私はまた、泣いた。

冬樹にも「馬鹿か!!」と怒られたけど、私が「ごめんなさい」と素直に謝ったから、怒る気力を無くしたみたいだった。



それから、また数年。
私は大学生になっていた。
父譲りの才能で昔から詩や小説を書くのが好きだったから文学部に入った。

「(あれ?なんの人だかりだろう?)」

ある秋。20歳になった次の日。
校門前に大きな人だかりが出来ていた。
でも、私には関係ないなと通り過ぎようとする。

「……洵菜ちゃん!!」

「……藤、さん?」

人だかりから現れた(人だかりの原因の)藤さんは、私に迷わず花束を渡してくる。
私が立ち尽くしていると、周りの生徒は口笛を吹いたりして茶化すから私はギッと睨む。

藤さんはその一連の流れに「……やってもた」と後悔しているみたいだったが一応聞いてみよう。

「……藤さん、これは?」

「……花束」

「…………なんで、花束?」

「あー、せやから、その……」

私はそんなもだもだしている藤さんのネクタイをぐいっと引っ張り、その唇にキスを送る。

周りからまた歓声が上がったけど、もう、無視だ。

「……?!?!」

「こういう事じゃないの?」

私はもう、あいつの事、諦められたよ。
貴方のおかげでね。

「……はー、僕、キミのこと舐めてたわ」

「ふふ。ねぇ、これから暇??デートしようよ」

私も藤さんも乗り気でデート!!って感じで場所を移動しようとしたけど、藤さんは「あ!」と言って、手帳を見る。

「……しもた……この後会合あるわ」

「なんで忘れてたの」

藤さんは政治家として活動している。
主にLGBTへの偏見を無くす運動や、セクシャルマイノリティの人の待遇について精力的に行っている。

「てか、いいの?政治家様がこんな若い女と付き合って」

「未成年ちゃうからええやろ」

「まあ、貴方がそれでいいならいいか」

ねぇ、冬樹。
私も幸せを手に入れたから、あんたも幸せになんなさいよね。

まあ、そんな心配いらないくらいラブラブだけど。


ーENDー