平和に行きましょう。

7月、声が、聞きたい(冬樹視点)


7月、声が、聞きたい(冬樹視点)


母さんに慶人さんに恋してんなーって言われてからなんかもうたまんなくて。
あんなに一途に雅さんを15年間想って来てたのに、あっさり慶人さんにシフトチェンジしてる自分にため息が出る。

もしかしたら、雅さんへの想いは、ずっと『憧れ』、だったのかな。

でも、雅さんに似てるから『恋』した訳じゃない。
慶人さんのつらそうな顔にたまらなく悲しくなって、抱きしめたくなるんだ。

俺がいるよって、言いたくなる。

そんで、めちゃくちゃに暴きたい。

なんか、末期じゃん。


今、何してんだろう。


…………会いたい。


恋を自覚して2週間。
そんな夏休み初日の平日。午前10時。
とりあえず、慶人さんにLINEしてみることにした。

『おはよう!慶人さん、今何してんの??』

10分経っても20分経っても返信は来ない。
30分経って、もう一度、LINEする。

『もしかして、忙しい??』

返信は、来ない。
もしかして、彼女とかと、デートしてんかな……。
慶人さん、雅さんに似て美形だから女がほっとかないよな。

胸が痛い。
苦しい。

『……慶人さんの、声が聞きたい』

何を送ってんだろう。
消そうとして、消さなかったそれへの返信は、また来ない。

とりあえず、今日は洵太と2人で昼ごはんなので、今日は簡単に牛乳入り坦々麺風素麺にした。
ちなみに、父さんと母さんは仕事、洵菜はバイト、春風は朝から友達と出掛けてる。

「(……キモかったかな)」

そんな後悔が募る。
ぼーっとしていた。

「……冬兄さん、鍋吹いてる」

「え?!あ、やっべ!!」

素麺を茹でていた鍋が3回目の沸騰して吹いてしまっていたのを食器の準備をしていた洵太に指摘され、慌てて火を止めた。

それから、牛乳 150ml、水 100ml、みそ 小さじ1、めんつゆ(3倍濃縮) 大さじ2、にんにく(チューブ) 小さじ1/2、すりごま(白) 大さじ2を混ぜ合わせて、お皿に盛り付けた素麺にかける。

うん。
美味そう。

「「いただきます」」

2人して席につき、手を合わせる。
洵太と2人だと静かで、ちゅるちゅると素麺を啜る音だけが響く。

「……最近、変だけど、どうしたの?」

「へ?」

洵太は真剣な目で見つめてくる。
こいつは、人の悩みとかそういうのに敏感なんだよな。
なんか悩んでたら直ぐに気づかれる。
でも、自分は表に出さないから厄介だ。

まあ、大体春風が代弁してくれんだけど。

「なんか、ぼーっとしたり、突然奇声上げたりするから」

「……見てんなよ」

奇声は部屋でしか上げてませんが。

「……なんか、悩んでるの?」

心配そうな目で見つめる洵太。
この顔にお兄ちゃんは弱いんだよなー。
なんか直ぐに悩み打ち明けちゃうんだよな。

こいつなら。
人を貶したりしないし、雅さん達の事も認めてるし、多分大丈夫、と俺は話し始める。

「……俺さ、雅さん好きだったんだよ」

「え?今更?」

「お前もか……」

なんでみんな気づいてんの。
いや、好き好きオーラ隠せてない俺が悪いのか。

「でも、『だった』?」

「……うん。今、違う人気になってて」

「慶人さん?」

「ブフォッ」

俺は盛大に素麺を吹き出した。
洵太は「汚い」と眉間にシワを寄せながらティッシュと台拭きを持って来てくれる。

俺の弟優しい。

「……なんで、わかった」

「いや、最近仲いいのってあの人くらいじゃない?高校の友達より距離近い気がするし」

「う"っ」

いや確かにちょっと距離感バグってましたけどね?
好きって自覚してからめちゃくちゃLINEしてるし、めちゃくちゃスタジオで自主練に誘ってるし。

いや待てよ?

「……もしかして、俺、ウザイ?」

「……かもね」

痛恨の一撃。

そりゃあそうだよな。
7歳差だけど、従兄弟の子供で、同性で、ちょっと前に知り合ったばっかで、しかも俺はゲイ公表してるし。

……気持ち悪い、よな。

「兄さん」

「……ちょっと寝るわ。後片付けは後で俺やるから」

「……兄さん」

洵太は心配そうにしてたけど、俺は麦茶を飲み干して食器をシンクに浸けて、部屋に戻った。

その時、12時25分くらいだったと思う。
それからちょっとゴロゴロしてると、LINEの通話の着信音が鳴る。

誰だ?
と身体を起こしてiPhoneを見ると、ディスプレイには慶人さんの名前。

俺は慌てて電話に出た。

「は、はい!」

『悪い、仕事してて遅くなった』

「へ?仕事?」

俺が間抜けな声を出すと、慶人さんは呆れたように笑う。

『お前は夏休みかもしんないけど、俺は社会人なの。長期休暇なんか正月と盆しかねーわ』

「あ……」

そうだ。
慶人さん、今日仕事なんじゃん。
俺勝手に寂しくなって、暴走して、馬鹿じゃん。

そんな俺に慶人さんは優しい声で囁く。
煙草を吸っているのか、ふー、と息を吐く声が聞こえる。
耳がこそばゆい。

『どーした?なんで俺の声なんか聞きたかったの』

「……なんとなくだよ」

『そ?』

「うん」

……ああ、好きだ。
こんなにも心臓が高鳴るのは初めてだ。
電話越しなのがもどかしい。

抱きしめたい。

キスしたい。

……暴きたい。

「ご飯、食べた?」

『ああ。コンビニ弁当だけど』

「栄養偏るよ」

『……じゃあ、料理教えろよ』

一瞬、ぶっきらぼうに言われたその言葉が理解出来なかった。
でも、それがそういう意味だって気づいて俺は慌てた。
いや、待て。深い意味はない。
きっと、なんもそんな深い意味はない。

「……いいよ」

『……今度の日曜日空いてる?』

「3日後?」

『うん』

俺はカレンダーを見る。
3日後は何も予定が入ってない。

「大丈夫」

『じゃあ、また詳しくはLINEするから。そろそろ昼の準備しなきゃだし切るわ』

「うん、また」

『またな』

ピロリンッと音が鳴って、通話が切れる。
え、待って??

まさか、お家デート??


ーつづくー

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