平和に行きましょう。

7月、犯してしまった過ち(冬樹視点)


7月、犯してしまった過ち(冬樹視点)


あれからなんか気まずいけど料理講座当日になってしまい、午前10時、俺は待ち合わせ場所の駅入口にいた。
良く慶人さんと待ち合わせするのがこの駅だ。

「はぁーーー……」

深くため息を吐いて、パンッと自分の両頬を叩く。
よし、気合いが入った。
すると、周囲(特に女の人)が恍惚のため息。
ああ、来たな。

「またお前の方が先かよ。何分前に来てんの」

「え、さっき来たとこ」

「はいはい、イケメンイケメン」

眉間にシワを寄せて嫌そうな顔をする慶人さん。
そんな顔すら可愛いと思う俺はホントなんというか。

ああ、好きだなと思う瞬間だった。

「今日、何作んの?」

「豚バラご飯と、塩肉じゃがと、スープと、あとサラダ」

「あはは!めっちゃ豪華だな」

はー……ホント今日も可愛いですね?

それからスーパーで買い物を済ませ、慶人さんの部屋に行く。
うちでも良かったけど、今日はみんないるし、なんか俺が嫌だった。
……慶人さんも自分の部屋のがいいって言うし。ちくしょう可愛い。

勘違いしそう。
慶人さんノンケらしいのに。

なんで、俺は望みのない恋ばっかすんの。

「散らかってるけど」

部屋に招かれる。
すんすん。慶人さんの匂いがする。

部屋は1LDKで意外に片付いていた。

「普通に綺麗」

「躾されてきたからな。厳しく」

また、そんな悲しい顔をしないで。
俺は泣きそうな顔をする慶人さんを抱きしめたいのをぐっと堪えて食材をキッチンに置いた。
そして、カバンはリビングに適当に置いてくれと言うので、ソファーの近くに置いておく。

「まず何から作んの?」

「うーん、サラダ?あ、レシピこれね」

「作ってくれたのか、レシピ」

「本を印刷しただけだけどね」

慶人さんはサンキュと言ってレシピを眺める。
そして、俺は買い物袋から、きゅうり、にんじん、ハム、春雨を取り出す。
その間、慶人さんが卵を冷蔵庫から取り出す。

そして、まな板と包丁、フライパン等を取り出してもらう。

「きゅうりを、せん、千切り??」

「千切りはこう」

千切りが分からないらしいので、俺は実践して見せる。
そして、千切りを理解した慶人さんにきゅうりをお願いして、自分は卵を割りほぐし、フライパンで両面焼く。

焼き終わった頃にはきゅうりを切り終えていて、「人参……ほそ、細切り??」とまた首を傾げていたのでまた実践する。
人参は皮を剥かないとだけど、慶人さんの包丁さばきが危なっかしくて俺がやった。

慶人さんは春雨を茹でる。

「慣れてんな」

「んー。まあ、うち共働きだし、俺、小さい頃から料理するの好きだったから母さんが仕事の日とか手伝いしてたら自然に」

「へー。俺は男が台所入んなって言われたわ」

「なんだそれー」

笑いながら人参を切っていき、切り終えてからきゅうりと人参を茹でる。
茹で終えたら水気を切っておく。
あと、焼いた卵を細切りにしてきゅうり、人参、春樹、あと切ったハムと調味料を混ぜて、そして冷やして出来上がり。

「サラダは簡単だな」

「でも、慶人さん指切断しそうで怖いんだけど」

「笑えない冗談ヤメロ」

それから、肉じゃがと豚バラご飯とスープを作る。
慶人さんはいちいち俺の手際の良さに感心していた。

「こんな感じだけど、どう?」

「うん、いんじゃね?」

スープを味見して、2人ともから合格点が出たので火を止める。
お皿を用意して、盛り付けていたんだけど、なんかそれが新婚みたいで恥ずかしくなってしまった。

まあ、それは気づかれなかったからいいけど。

リビングの座卓に料理を並べて向かい合って座る。

「「いただきます」」

俺はまず肉じゃがを食べた。
じゃがいもがホクホクしててとても美味しい。

「お、豚バラご飯美味い!!」

慶人さんは豚バラご飯がお気に召したようで、おかずも食べながらもりもり食べる。
リスみたいで可愛いんだが。

俺達は夢中で料理を平らげていく。

「ふう……ご馳走様」

「美味かった。勉強になったし、ありがとうな」

慶人さんがふわりと笑う。
やっぱり、誰かのために料理作るのっていいな。
まあ、一緒に作ったんだけど、それも、なんて言うか、幸せだった。

好きが、溢れてきた。

食器を洗うためにキッチンに向かい、2人で分担して洗う。
そして、洗い終わって、何故か慶人さんが俺を見上げる。

「??慶人さん?」

「お前、身長いくつだ?」

「175」

「くっ……」

悔しそうな慶人さん。
まあ、慶人さん小さいしな。

「慶人さんは?」

「……167」

「可愛いね」

「はあ!?」

慶人さんは『可愛い』に過剰反応して、顔を真っ赤に染める。

は??可愛すぎんだが。

俺は一瞬理性を飛ばした。

ちゅっ、と2人の唇が触れる。
慶人さんは目を見開いていた。
俺は慌てて離れる。

「……間違えた」

順番を、完全に間違えた。
俺は慌てて慶人さんに弁解しようとしたけど、出来なかった。
怖い顔をした慶人さんに、その唇で、再び口を塞がれたのだ。

少し背伸びして必死に俺の唇に吸い付く慶人さん。

意味がわからない。
なんで??

慶人さんはノンケじゃないの??

でも、困惑よりも好きな人とキスしてるのが嬉しくて俺も初めてながら慶人さんの唇に貪りつく。

かしゃん……
計量カップが腕に引っかかって落ちたのもお構いなしに激しく口付けする俺達。

俺は堪らず、慶人さんを壁に押し付けて口付けを続ける。深く、深く。

「んっ、んっ、ふぁっ、ふ、」

「んっ、ふ、」

舌が絡まり合い、ぺちゃぺちゃと水音がキッチンに響く。

何度も何度も角度を変えて口付け合う。

俺は慶人さんの身体と後頭部をかき抱き、慶人さんは必死に俺の頭を引き寄せる。

このまま理性を飛ばして、1つになりたい。

「んぅっ、ふ、はぁ……んっ……ふぅ……」

ふと、慶人さんが始めと違う気がして閉じていた目を開くと、彼は泣いていた。

俺はぎょっとして、口付けを辞める。

「慶人さん?!ごめ、嫌だったよね?!……?!慶人さん??」

「……ごめん」

「え……??」

慶人さんは俺の肩に頭を預け、ただひたすらに「ごめん」と謝ってきた。

どうして……??

でも、謝る理由を聞いても慶人さんは答えてくれなかった。


ーつづくー

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