平和に行きましょう。
7月、代わりじゃ嫌だけど、隣を独占できるなら代わりでも良かった(慶人視点)
7月、代わりじゃ嫌だけど、隣を独占できるなら代わりでも良かった(慶人視点)
冬樹に、キスをされた。
ただただ、びっくりした。
びっくりしただけで、嫌じゃなかった。
むしろ、
嬉しかった。
だから、絶望した。
アイツが「間違えた」って、言ったから。
『間違えた』?
兄さんと、間違えたのか??
ああ、俺と兄さん、似てるもんな。
ふざけんなよ。
じゃあ、忘れらせてやる。
俺がキスしてやるから……
……兄さんなんて、忘れろよ。
俺が夢中でキスしてたら、アイツも獣みたいに激しく俺を求めてきたから、嬉しかった。
溶けてしまいそうだった。
このまま一線を越えてしまっても良かった。
でも、
虚しかった。
コイツがキスしてるのは、俺じゃない。
俺の向こう側にいる、兄さんだ。
あーあ、またか。
なんで、みんな兄さんが好きなんだよ。
俺を、見てよ。
…………冬樹、お願いだよ。
「玖木、元気なくない??大丈夫か??」
「……んー、まあ、大丈夫」
同僚に心配される7月末。
あれからまた3日経ち、俺はまともに寝ていない。
クマができ、元気の無い俺を心配する同僚に、頼ることも出来ない。
好きな相手がキスしてきて、「間違えた」って言われて、キスで塗り替えてやろうと思ったら、虚しくなって、泣いてしまって、しかも、その相手は同性。
言えない。
「……煙草行ってくるわ」
もう、何もかもが嫌だった。
上手くいかない。
全部兄さんのせいだ。
違う。俺に魅力がないからだ。
「玖木」
「……先輩」
煙草を吹かしていたらアラフォーのベテラン先輩が喫煙所に入ってくる。
「なんかあったのか?みんな心配してたぞ」
「いや、ホント大丈夫なんで」
「玖木」
「…………」
ほっといて欲しい。
でも、誰かに聞いて欲しい。
「……好きな奴が、いるんです。ちょっと年下の、料理上手な奴で……」
「うん」
先輩は紫煙をくゆらせる。
でも、ちゃんと聞いてくれてる。
「この間、料理を、教えて貰ったんです。俺の、部屋で」
「うん」
「……キス、されたんですけど、『間違えた』って言われて」
「……それ、」
俺は自嘲気味に笑う。
ああ、そうだよ。
アイツは、アイツも、兄さんがいいんだ。
俺なんか、好きじゃない。
「アイツ、俺の兄さん……玖木雅が好きなんですよ……だから、間違えた、って、おれ、おれはいつもそうだ……。でも、悔しくて、上書きしてやろうと思ってキスしてやったけど……めちゃくちゃ、虚しくて……」
「つらかったな……」
先輩は前を見ながら、煙草を吹かしながら、俺の頭を撫でる。
それが暖かくて、俺は泣いてしまった。
なあ、冬樹。
俺はさ、こんなにも誰かを好きになった事ってないんだ。
どうせ女なんか、俺を玖木雅に会うための道具でしかないって思ってるって割り切ってたから、別に苦しくなかったんだよ。
でも、
お前が兄さんを想ってるのは、胸がムカムカするんだ。
嫉妬でおかしくなる。
なあ、冬樹。
代わりでもいいよ。
どんな酷い仕打ちを受けてもいい。
だから、俺を愛して……。
ーつづくー
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