たまには真面目に考えよう
「こちらが天女様のお部屋です。寝間着はここに置いておきますね」
「はあ、どうも…って香水あっっっま! ピンッック! 何ここラブホ? 新種のラブホですか? 忍術学園ってそういう? 拙者のクナイでニンニンってか? 隅に置けないっすね」
ここに新八くんがいたらきっと「ピンクなのはアンタの脳内だァァァ!」とか突っ込んでくれたはずなんだけど、ここの人たちはそこまで甘くない。全体的にずっとピリピリしている。アレの日の妙ちゃんくらいにはピリピリしている。
「…先ほどから随分と人を小馬鹿にしたような態度をとられますね」
「えぇ? そうかなあ、まあ信用もしてくれてない相手に媚び売るような人間じゃないんで」
「…、別に、私たちは信用したくないわけでは…」
ん? と思ったが、土井先生はそのまま口を噤んでしまった。なんか訳アリっぽい。めんどくさそうだし首を突っ込みたくないというのが本心である。適当に流そう。
「んまあ、ご案内ありがとうございました。歯医者のドリセンセイもどうぞお仕事に戻ってください」
「…教師の、土井です。では天女様、失礼」
「え、っ!」
一瞬で消えたんですけどォォォ! ウソでしょ、あの人何者? もしかしたら前世は忍者かもしれな─…ここ忍術学園だったわ。
「…なーんか面倒なことになっちゃったなぁ」
未来から続々タイムスリップしてくるというテンニョサマ。いきなり現れた未来人に、衣食住を保証して手厚く保護する暗殺者育成学校。
そんな上手い話が、
「あるわけないんだよなぁ…」
少年二人の警戒の目。入り口の事務員の諦めの顔。あの貼り詰められた空間。どこを取ってもじーさんの話みたいに穏やかでお優しい雰囲気は無かった。こと細やかに話してくれたようで、一切触れられなかったテンニョサマの最後。"帰るまでの手助けを"なんて言ってたけど、テンニョサマがどうなっただとか、どうやって帰っただとか、どんな様子だったとか、何も語られていない。わたしはアホに見せかけたドアホだけど、そんなアホでもわかるあの空気。テンニョサマについて触れたら、わたしも彼女たちと同じような末路を辿るぞ、と。
ピリピリ忍者たちを下手に刺激して死にたくないので、ここの皆さんとはそこそこの付き合いをして、手がかりを見つけてとっとと帰ろうと思う。着ていた着物を脱いで、さっき貰った寝間着を手に取った。天井がカタンって言った気がする。ねずみかなあ。真選組の屯所にもたまに出るんだよなあ。…おっし、そうこうしてるうちに着替えられた。押し入れを開けて敷布団を引っ張り出す。この世で一二を争うくらい布団が好きだ。結婚を前提にお付き合いをしてほしいとずっと思っている。寝転がるとなんだかどっと疲れが押し寄せてきた。どれもこれも意味不明な現状のせいだ。
まったくかつらはよけーなことをし、てくれ──
***
─眠ったか。
─あぁ、暫くは何やら考えていたようだが。矢張り今までのと同じく、慣れない環境に多少は疲弊しているようだ。
─今までの天女とは打って変わって終始迷惑そうな顔をしていたがな。…時に文次郎。
─何だ。
─天女の裸体はどうだった?
─ばっ...、...変な言い回しはやめろ。流し見程度だったが、特に目立った傷はねえよ。手にマメはあったが、武器によってできたものじゃないだろう。
─ふむ。矢張りこれまで通り、暫くは様子見と言ったところか。
─ああ。だが学園に害を為すと判断した場合は、
─無論。容赦は要らぬ。