出逢いを

昴に「末永くよろしく」と言われて数日間、遙は博士宅に泊まり込んでいた。原因は遙が徹夜でゲームをしていたからだ。哀からの無言の圧力がすごかったので、どうにか機嫌を直していただこうと晩御飯だけは欠かさず作り、流石にゲームオーバーが続く画面を見てついに遙の心が折れて、夜は哀の隣でぶすくれながら寝た。哀が、「まったく、バカね」と溜息を吐きながら、頭を優しく撫でてくれたのが最高に遙を癒した。


「ん〜、じゃあ哀、博士!私用の買い物あるから、晩御飯は作れないと思うし…久しぶりに家帰るよ。また明日来るな!」
「そりゃ構わんよ、気を付けていくんじゃぞ〜」
「あなた…ゲーム買いに行くんじゃないでしょうね?」
「ちっがうよ!…絵の方!」
「それならいいのよ、それなら、ね。下手なことにお金かけないのなら、いいわ」

っじゃあ行ってきます!また明日な!と遙はいじけたような声を上げて、車を走らせた。「哀のやつ…!俺がゲームで惨敗したからって…!」と涙を滲ませながら行きつけの大型雑貨店へと向かった。

駐車場に車を止めて外に出ると、隣に止まっている白のRX-7が止まっていた。しっかりと手入れされているのか、太陽に照らされて一層眩しく遙の目に入ってきた。「ふお〜いい車乗ってる……きっと…いやすっごくお金持ちだ…」とキラキラとさせながら、スマホの買うものリストを開いた。


「え〜っと、まずは月花の荘のスケブ2冊…小さいサイズあるかな…」

エレベーターに乗って3階を押して『閉』を押そうとすると、「ああ、ちょっと待ってくれない?乗るわ」と声が聞こえたので、慌てて『開』に指を添えた。乗ってきたのは、プラチナブロンド髪の女性だった。顔はサングラスをしているが、美人だ間違いない…!と遙は少し緊張しながら「何階ですか?」と聞くと、女性は笑って「あなたと同じ階よ」と綺麗な声で答えたので、遙は頷いて前を向いた。軽快な音を立てて、エレベーターが開いたので、先に美人なお姉さんを通すか…と『開』に指を置いて振り返り、「どうぞ」と手を前に向けると、そんな遙の態度に、ブロンド髪の女性は、はっとしたような様子を見せて、ふっと口元を柔らげた。「…あなたも、変わらないわね」と小さく呟く声が聞こえた気がして、遙は首を傾げた。

「……また、逢いましょう“シークレットリヒト”」
「へっ?」

プラチナブロンドの長髪が、遙の視界を滑るように流れると、颯爽と歩いて行った。遙はぼーっとその女性の後ろ姿を眺めながら、「どっかで会ったこと、あったっけ…?」と考え始めようとしたところで、エレベーターが閉まりそうになったので、慌てて降りた。
画材コーナーに着いた遙は、そこで絵の構想を練りながら、必要な物を次々とカゴに入れていく。紙質に拘った新商品が出ていたので、その描き心地を確かめられるコーナーで鉛筆片手に幼い少女と競い合ったり、男子高校生と絵心とはなんぞやと語り合ったり、文具好きな男性店員と意気投合したりして、画材調達を存分に楽しんだ。男性店員に別れを告げたところで、昴からの着信が入った遙は、自販機で蜜ダサイダーを買って椅子に座りながら電話に出た。

「もしもし」
『こんにちは』
「はーい、こんにちは!どうした?」
『いえ…今日の夜は空いていますか?』
「空いてる!」
『良かった。カレーを作ったんですが、一緒にどうです?』
「おお!有希子さんから教えてもらったやつ!飲み込み早いな〜もう一人で作れんの?」
『ええ、作ってみました。…味は、おいしいかどうかわからないが』
「よーっし!この遙が食べてみてあげよう!」
『お待ちしてますよ』
「うん!じゃあまた後で」
『ええ』

電話を切ってサイダーを一口飲むと、遙は買った画材の入った袋をちらりと見る。周りでは、飲み物片手にもくもくと絵を描いている人がちらほらといる。腕時計を見ると、まだまだ時間はある。遙は、誘惑に負けていそいそと買ったばかりのスケブと筆箱からお気に入りの製図用シャーペンを取り出した。ジーンズのポケットに入れていたウォークマンも取り出してイヤホンを耳に付けて音楽を再生させると、白い紙にシャーペンを走らせた。

―― まだ独学で勉強している最中だが、哀からは「ゲームなんてやめて本格的に絵を描いたら?」と良く言われるし、行きつけの喫茶店でも、「遙さん今度のイベントで配る広告のイラスト、お願い出来ますか?」と言われたことがある。快く引き受けて描いて渡したら「マスターからお礼です!」とコーヒーとケーキをご馳走してくれた。あれは嬉しかった。遙は小さく笑みを浮かべながら、次々と白い紙を隙間なく埋めたのだった。

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ふと、遙は顔を上げた。そしてぐっと伸びをすると、スマホを取り出した。今日はコナンはサッカーの試合に出ているらしく、≪あっちィ≫というなんとも短いコナンからのメールに微笑んだ。「水分しっかり摂るんだぞ!ホームズ!」と返して、遙は周りに広げていた画材をスマホと一緒にバックに戻すと、立ち上がった。

足早にエレベーターに乗り、『P1』の後に『閉』を押して車のキーを取り出すと、スマホが震えたので、コナンかなと思い画面をタップすると、昴からだった。≪お泊り道具を忘れずに≫と書かれていた。遙は「泊まるつもりはなかった…!」と呟いたが、まあいいかと「了解、お風呂洗っとくの任せた!」と返信した。お風呂を洗う冲矢昴※注・赤井秀一の図が想像するだけで面白くて遙は肩を震わせて笑った。昴には絶対内緒だ。いやでも会ったら笑っちゃうかも…!あの赤井秀一が、お風呂掃除…!かわいいかも…!と、遙は思考でデフォルト化された可愛すぎる冲矢昴と赤井秀一を愛でた。