金一くん

「あえて使いづらい小指で携帯を操作していたのは、その店のフライドプテトを食べた際に右手の親指、中指、人差し指に付いた油をまだ完全に拭き取れていなかったため…それに、ロングヘアーの君の口元にも…少々塩がついていますしね…」

昴の言葉に、蘭がペロリと自分の唇を舐めて、「す、すみません!!」と謝り、「ちょっと洗面所に!」と言う園子と共に、顔を赤らめて急いだ様子で洗面所へと入って行った。

「フッ…」
「もー昴、相手は女の子なんだから、もーちっと優しく包んで発言をだな…」

遙が溜息を吐いてから、「そういや俺もなんも食べてないや…」と呟くと、「昴、ほんとにウェルカムバーガー食べんの?」と問いかけたので、昴はすぐに首を振り「いいえ、冗談のつもりでしたが…」と答えた。それに遙がにっと笑うと「じゃあ、簡単なので良ければ作ってくるけど」と告げたので、昴も薄く笑みを浮かべ「ではお願いします…楽しみにしていよう」と言うと頷いた。

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「まーこんなもんかな!」

遙は昴と自分のおにぎりと、蘭と園子にジュースを用意すると、3人を呼びに行こうとリビングを出た。書斎から声が聞こえたので、そちらに足を向けて、開いた扉をノックしようとすると、蘭が「つまり…SOS!!救助を求めるための遭難信号になるってわけさ!」と告げたので、遙はノックする手を止めて、書斎に入った。

「え?」
「って、メールに書いてあるんだけど…」
「…3人とも、俺がリビング行ってる間になんの話してんの?」

訳分からんと言ったような表情の遙に、蘭が紙飛行機の謎を解いていることを話して、その紙飛行機を見せると、「ああ、これ、最近ネットニュースに流れてた、紙飛行機の模様に似て……ん?これ…柄違うような…線入ってる?」と一人呟くように紙飛行機を見つめた後に、はっとして「これが、さっき蘭が言ってたSOSの遭難信号のことか?」と蘭を見ると、蘭は頷いた。

「っていうか…!ウソ!新一くんもう解いちゃったの?」
「うん…それで他の種類の紙飛行機の画像があったら画像を送ってくれって…」

蘭と園子の会話に、遙は「あいつ…授業中じゃないか…?先生に迷惑かけてなきゃいいけど…」と内心で深い溜息を吐いた後に、他の種類の紙飛行機の画像か…と携帯を取り出そうとしていると、昴が「新一くん?」と口を開いた。

「そういえばここの家主の名前も…新一でしたよね?その彼にも相談しているんですか?」

その言葉に、園子が昴に振り向いて「あ、知りません?高校生で探偵をやってる新…」と言葉を続けようとしていたのを、蘭が大声で遮ったので、遙は驚いて蘭を見た。

「き、金一です!!」
「え?」
「へ?」

き…きんいち???

「クラスに推理好きの金一って子がいて相談してるんです!」
「ホォー、新一ではなく金一ですか…」

ち…ちょっと、蘭さん、なにをおっしゃって…?

「は、はい!ここに住んでた新一は、何の取り柄もない高校生で、わたし達はそいつが学校サボってる間、掃除を頼まれていて…」

隣で聞いている園子は、遙と同様に困惑した表情を蘭に向けていた。昴は蘭の発言に小さく首を傾げると「…ただの高校生…僕にはとてもそうには思えませんが…」と告げた。

「なにしろここには、彼が住んでいたという痕跡が何も残されていませんから…」
「え?そうなんですか?」
「ええ…衣服や日記やアルバムの類はどこにも…まあ目に付く所にはの話ですがね…」

それには遙の心臓がひやり、とした。今現在の工藤新一は『江戸川コナン』という小学生になっている。もし工藤新一=工藤新一とわかってしまう物をこの工藤家に置いておくのは危ないのだ。遙が昴の発言にドキドキしながら冷や汗をかき胸に手を置いていると、「ひょっとしたら、私達が掃除しに来るから、見られるのが恥ずかしくてどこかに片付けちゃったのかも…」と蘭が考えていると、園子が「片付けって言えば、さっき寄ったウェルカムバーガーの店員さんも「看板に引っ掛かってる紙飛行機を片付けておいてくれ」って言われてたよね?」と思い出したように言うと蘭がはっとして「じゃあすぐに取りに行こ!」と半ば園子を引き摺られるようにして書斎から出て行った。
遙が一瞬呆気に取られていたが「……あっ、二人とも気を付けて行って来いよ…!」と、すぐに慌てたように二人を追うが、書斎を出る前に昴の方を振り向くと「リビングにおにぎり用意してるから!先食べてて!俺二人を外まで送ってくる!」と告げて今度こそ書斎を後にした。

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二人を見送った遙が、リビングに戻るとソファに座っていた昴が新聞片手におにぎりを美味しそうに頬張っていたので、「それツナマヨだ、俺にも一口!あーー」と大きな口を開けた。―― 昴が一瞬固まり、そしてじっと遙を見つめた後に「フッ…」と微笑むと食べかけのおにぎりを遙の口に近付けた。嬉しそうにおにぎりを食べた遙が「俺の作ったおにぎりうまー」ともぐもぐと幸せそうな表情をしているのを昴は胸の小さなざわめきを押し殺しながらコーヒーを飲むと「とても美味しいですね」と呟いたので、遙が手に持ったおにぎりのラップを剥がしながら昴に問いかけた。

「それは…おにぎり?それともコーヒー?」
「もちろん、おにぎりですよ」

遙の淹れるコーヒーが美味しいのは、もうわかっていますから、と昴がツナマヨのおにぎりを食べながら微笑んだので遙は嬉しそうに「なら良し!」と目を細めて微笑んだ。

おにぎりを食べ終わり、おかわりのコーヒーを淹れようと立ち上がると同時に、蘭たちが帰って来たので、遙は「おかえり、紙飛行機まだあった?」と聞くと、「あったわよ!」「これなんだけど…」と紙飛行機を見せてくれた。それを昴と眺めていた遙が「なんか見たこと…あるような…」と呟くと、「これは…アンテナのマークですね」と昴が答えたので、遙が思い出したというように「携帯電話の!」と続けると蘭と園子が「ア、アンテナのマーク!?」「携帯電話の!?」と言うと二人は携帯電話と紙飛行機を交互に見ながら「ホントだ、そっくり…」と目を丸くした。

「つまり、胴体に入った5つの長点と合わせると、電波が0…さらに最初のSOSを踏まえると…「自分は電波の届かない場所に囚われているから、助けてくれ」…という意味になりますね…」
「すっごーい!昴さん名探偵〜!」

園子が賞賛を口にすると、「で、新一くんからの連絡は?」と小さい声で蘭に言うと「ま、まだきてないけど…」と蘭が園子に呆れた表情を向けた。
昴が「しかし、まだ圏外にいることがわかっただけですし…」と思案気な表情をしていると園子と蘭が知恵を出し合った。

「圏外なら山奥とか?」「でも紙飛行機が回収されたのって全部街の中だけだよ?」
「んじゃ地下だったり?」「地下からどーやって園子ん家の庭まで飛ばすのよ」「あ、待って!一昨日と昨日に回収されたんなら今日も回収されてるんじゃない?」「そっか、じゃあテレビのニュースでやってるかも…」

二人の会話を昴と二人で静かに聞いていた遙は、昴と目を合わせると頷いて、蘭と園子に微笑んで下手くそなウィンクをした。

「―― じゃあ、みんなでニュースを見ようか!」

リビングに向かう途中に園子から「遙兄、ウィンク下手なんだからしない方がいいわよー」と余計なお世話を遙は頂戴した。